例えばアラーキー
59歳の金村さんは日本写真協会新人賞、土門拳賞などの受賞歴がある実力者。モノクロの都市風景で知られるほか、辛口の批評でも有名だ。専門誌「日本カメラ」で読者コンテストの審査を担当するや、容赦のない講評に抗議が殺到。それが評判となり「金村修に叱られたい!」なる連載に発展したという。もっとも本人はいたって温厚らしい。
カメラも俎上に載せる「家電批評」での連載は、「1億総カメラマン」の時代に ざっくばらんに世相を「切り撮る」という趣旨で始まった。今作で82回を数える。
「プロの写真家なら猫になれ」...これが金村さんのメッセージだ。周囲に警戒心を与えず、抵抗なく懐に潜り込む才能である。有名どころでは 荒木経惟さんがそうだという。「人物を撮るというのは、相手のガードをくぐり抜けていきなり本丸を攻めること」...だから「自意識が高くて気難しい感じの人は写真家に向かない」という。
人物写真は、ポートレートにせよ社会派にせよ、被写体との関係性が作品にも表れる。特に子どもの表情は、写真スタジオのプロではなく、お母さん(お父さん)が撮ったものが 巧拙はさておき一番自然とされる。写される側が警戒せず、カメラという「暴力的な道具」の存在が消えてしまうのだろう。
私もツイッターに数え切れない写真を上げているが、思えば風景や車、動植物など、こちらに愛嬌が要らない被写体ばかり。こういうものは素人でも「映える」写真が撮れてしまう。プロの腕はやはり、画面に人物を捉えた時にこそ試されるのだろう。
冨永 格