総合的な花粉症対策が大きく動き出している。政府は2023年5月30日、花粉症に関する関係閣僚会議で、花粉の発生量をおよそ30年後に半減させることを目指すなど、対策の全体像をとりまとめた。しかし、目標は「30年後」なので、すぐに効果が期待できるわけではなさそうだ。
「発生源対策」など三つの柱
春になると多くの人を悩ます花粉症。マスクはもちろん、ティッシュが手放せない人も少なくない。目や鼻が花粉でアレルギー反応を起こし、不快感が付きまとう。調査にもよるが、日本人の約4割が花粉症ともいわれている。
TBSによると、政府は、花粉症被害の軽減について、「発生源対策」「飛散対策」「発症・曝露対策」の三本柱で具体策の検討を進めている。
この日の会議では、発生源対策として、
・スギの人工林の伐採規模を現在の年間およそ5万ヘクタールからおよそ7万ヘクタールへと拡大し、人工林の面積を10年後に2割程度減らす
・花粉の飛びにくい苗木の生産を拡大し、10年後に苗木全体の9割以上とする
などを決めた。
また、飛散対策として、AI(人工知能)などを用いた詳細な気象データを提供し、民間事業者による花粉の飛散量予測の精度を高めることや、発症対策として、舌下免疫療法の普及に向けて、治療薬の生産量を今の4倍とすることなども決めた。
岸田首相は、花粉症について「一朝一夕で解決するものではなく、しっかりと将来を見据えて取り組みを着実に実行することが必要」と語ったという。
記事のコメント欄には、「自分は間に合わないけど、子や孫の世代に花粉症がぐんと減ってればいいなあ」など対策への期待の声が掲載されている。
時事通信によると、政府は対策を6月に策定する経済財政運営の基本指針「骨太の方針」に盛り込んだ上で、林野庁などが年内に具体策をまとめる。
日本では7割がスギ花粉症
厚生労働省のウエブサイトによると、日本では花粉症の約7割がスギ花粉症。これは日本では、スギ林の面積が大きく、全国の森林の18%、国土の12%を占めていることなどによる。
ニッセイ基礎研究所のレポート(22年03月08日)によると、花粉症はどの国でも発生している。地域によって生育する草木が異なるため、花粉症を引き起こす草木も異なる。欧州各地ではイネ科、米国ではブタクサなど、豪州ではアカシア(ミモザ)、南アではイトスギが有名だという。
スギは日本固有種であるため、スギ花粉症は日本の特徴だ。逆に言えば、日本ではスギ対策ができれば、花粉症が大幅に減る可能性がある。
このため、すでに花粉の少ないスギ苗木の生産は進められているが、2019年段階では、まだ全体の半数程度にとどまるという。
スギの伐採行われているが
花粉が生産されるのは、樹齢30年程度以上のスギと言われている。国内の人工林の多くが植えられて30年以上なので、大きくなったスギが花粉をばらまき続けているのが現状だ。実際、スギ花粉症の人は年々増えている。
発生源となるスギの伐採はすでに進められている。しかし、同レポートによると、安価な輸入材木の増加や他の素材の利用増加で、当初の計画を下回っている。
花粉症対策を施したスギ苗木の植え替えや、成長には相当の時間が必要だ。政府が「30年後に半減」という目標を掲げているのは、発生源対策が簡単には進まないことの証ともいえる。
同レポートでは、世界アレルギー機構の報告も引用されている。それによると、花粉症増加の要因としては、花粉の飛散量や樹木の手入れの状態だけでなく、排気ガス、人々の食生活や住環境なども影響すると考えられている。花粉症発症メカニズムの研究や、予防・治療技術の進歩、大気汚染物質など一般環境との関係解明などもあわせて行っていくことが必要とされている。