オープンカー 下野康史さんは「乗れば人生が変わるかも」と

屋根がない非日常

   いまさら隠しようもないが、私もオープン愛好者である。

   新聞社に就職し、配属先(山口総局)で買った新車は黄色いスズキジムニー(1980年式)。非番の時は幌を外して運転した。もちろん、上司には「隠密行動もある仕事なのに目立ち過ぎだ」と怒られた。ちなみに、ひとつ上の先輩はくすんだ色の中古カローラだった。

   いま乗っている、たぶん人生最後のマイカーとなるスポーツカーも幌式だ。オープンエアの開放感はクセになる。

   よく「冬は寒くないの?」と聞かれるが、同じ空気に晒されている歩行者や自転車と変わりはない。いや、左右の窓が寒風を防ぎ、下半身にヒーターが効く分、歩行者より快適である。防寒着に身を包めば、公園のベンチでひなたぼっこをしているようなものだ。むしろ辛いのはエアコンが効かない夏である。日頃 そのあたりの説明に難渋していただけに、これからは「露天風呂」のたとえを使わせてもらおう。

   下野さんは青天井と表現したが、車に屋根がない非日常感を「何か」にたとえるのは難しい。乗馬とは別物だし、ハンモックとも違う。私が助手席に乗せた親戚の女性は「遊園地のアトラクションみたい」と感激してくれた。

   他方、眼前のトラックの排ガスや砂ぼこりが舞い込み、季節によってはスギ花粉、桜の花びら、紫外線、落葉などが降り注ぐ。私の車のように幌の着脱が手作業なら、常に空模様を気にすることにもなる。そうした不都合もひっくるめての「オープン愛」なのだ。

   お陰で人生が変わったとは言わないが、人生の楽しみ方は教わった。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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