AI小室哲哉も夢物語ではない
AI孫燕姿は社会に2つの問題も投げかけた。一つ目は言うまでもなく「著作権」だ。生成AIの著作権はまだ議論の最中だが、技術を提供するプラットフォームは独自ルールを定め始めている。バイドゥ(百度)が提供する対話型AI「文心一言」は、同プラットフォームで生成した画像の著作権はバイドゥに帰属すると明記し、文心一言で生成されたコンテンツが原作者の権利を侵害した場合の救済窓口を開設する意向を示している。
もう一つの問題は、「AIが歌手を含めた音楽関係者の仕事を奪うか」というより根本的な問題だ。誰もが好きな歌い手(AIが音程などを整えてくれるなら、そもそも歌手である必要すらない)にヒット曲や好みの曲を歌わせることができるようになる未来が、音楽業界にどのような影響を及ぼすのか。また、実在の人物の歌声をAIで再現するにとどまらず、生成AIが人の好みを学習して、ヒット確率の高い、あるいは中毒性のある楽曲を作詞作曲し、人に好まれる歌声まで生成する未来も遠からずくるだろう。今はAI孫燕姿だが、AI秋元康、AI小室哲哉だって夢物語ではない。
これらの点について、中国では「大勢のアーティストや作詞家・作曲家が失業する」「アーティストに新しいチャンスを提供する」と意見が分かれている。
アーティストの間でも対応は分かれる。自分の歌声をコピーしたAI歌手を敵視するアーティストがいる一方で、起業家イーロン・マスク氏の元妻でアーティストのGrimesは4月24日、ロイヤリティを折半することを条件に、自分の声を自由に使って曲を作っていいとツイッターに投稿した。
その後、Grimesのチームは、彼女の声で楽曲を歌わせるためのソフトウエアを発表した。
渦中の人となった孫燕姿も5月22日、「太くなるウエストと子育ての日々に絶望しかけていたとき、AI孫燕姿なる輩が現れ、筆を取らずにはいられなかった」と始まる文章を発表した。
孫燕姿は、SNSでの「昔売れていた歌手が人気を取り戻した」との評価に、「自分がオワコンであることは認める」と皮肉を交えつつ、「数分で新曲をリリースできるようなAIには勝てるはずがない」「人類がAIを超えられなくなる日も遠くないだろう」と白旗を揚げた。ただ、自分の声が利用されることへの賛否は明らかにせず、「自分は映画館の一番いい席でポップコーンを食べている観客のようだ」との比喩で、当面は傍観に徹する姿勢を強調した。
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