「科学の目」が必要
元寇については、2020年に出版された『日本史サイエンス』(講談社ブルーバックス)も「科学の目」で分析している。著者の播田安弘さんは船舶設計者。東海大学海洋工学部で非常勤講師などを務めた船の専門家だ。播田さんも、合戦で「神風」が吹いたのではない、という説だ。
特に興味深いのは、玄界灘や対馬海峡の潮流分析。きわめて流れが速い。蒙古軍の船団は何とか横断できたようだが、問題は船酔い。蒙古軍の三分の一は船酔いで満足に戦えなかった可能性を指摘する。
蒙古軍にとっては、さらに不都合なことが起きたという。退却の途中、船の修理や休息のため壱岐に立ち寄ったが、ちょうど北西風が強くなる時期。当時の蒙古軍の船だと、錨を下ろしていても、風速15メートル以上になると流されてしまうことを指摘している。結果、大量の船が座礁したと見られ、のちに壱岐で遭難した軍船が100隻、上陸艇30隻が見つかっているという。
元寇については長年、「八幡愚童訓」という史料が参照されてきた。八幡神の神徳を「童蒙にも理解出来るように説いた」ものだ。鎌倉時代に成立したとされる。元寇の詳しい記述があることで有名だが、「八幡様のご加護」が強調され、それが戦前の「神国」「神風で撃退」につながった、ともいわれている。播田さんによれば、「八幡愚童訓」はいわば寺社勢力のPRのためにつくられたもの。科学の目を通した冷静な分析が必要、と指摘している。