神風は吹かなかった
なかでも興味深いのは、「モンゴル襲来――2回とも暴風が吹いたのか」。
これについては、2017年に、一般向けに出版された『蒙古襲来と神風』(中公新書)が詳しい。「元寇」は「神風」で撃退したという長く信じられてきたストーリーに疑問を呈し、修正を促している。
著者のくまもと文学・歴史館館長の服部英雄さんは2014年、豊富な資料をもとに500ページを超える大著『蒙古襲来』(山川出版社)を出版、旧来説の再検討に迫って注目されていた。
蒙古襲来についての通説は1274(文永11)年、元の大群が博多湾まで押し寄せたが、突然の暴風で退却した、1281(弘安4)年に再び襲ってきたが、これまた暴風で敵船の多数が沈んで日本が勝った、というものだ。いずれも日本危うし、危機一髪というところで「神風」が吹いたというストーリーだった。
服部さんは、そうした通説の根拠となった諸史料の解釈を批判的に検証。戦闘に参加した御家人・竹崎季長が描かせた「蒙古襲来絵詞」ほか、良質な同時代史料から真相に迫っている。そして、そもそも文永の襲来では嵐が来ていないこと、弘安の襲来ではたしかに嵐は吹いたが、合戦はその後も続き、相手が劣勢になったから撤退したとみる。