【連載】お腹トラブル天国と地獄 ~運命の選択~
40代女性の陽子さんは、10代から便秘体質。社会人になってからは、デスクワークが中心でさらに悪化し、定期的に刺激性下剤を使って排便しています。
ある日、雑誌を読んでいたら「刺激性下剤は危険!」という記事を発見。下剤への依存リスクを考えて、服用をやめるために生活改善をすることにしました。食事内容や生活習慣を見直しながら頑張っていたある日、立っていられないほどの腹痛と血便に襲われてしまいます。
下剤を使わずに自力で
陽子さんは生活改善の一環で、白米を玄米に変え、ブロッコリーやきのこ類など食物繊維が豊富な野菜を選んで食べるようにしました。便意がなくてもトイレに座る習慣をつけ、便意があるときは、強めにいきんで下剤を使わずに自力で排便していました。
ある休日の朝、あまり便意はなかったものの、時間の余裕があったので長めにトイレで踏ん張って見ることにします。簡単には出せませんでしたが、なんとか自力での排便に成功。うんちを出せたことに満足して、上機嫌です。
ところが少し経つと、突然お腹に違和感が。痛みはなかったため、特に気にとめず家事などをしながら過ごしていましたが、だんだんと違和感が腹痛に変わってきます。すぐに激痛となり、立っているのがやっとの状態になってしまいました。特に、左の脇腹部分の痛みが激しく、すぐにトイレへ。複数回の下痢のあと、便器をのぞくと血便が出ています。
「これはただ事ではない」と、急いで病院へ。検査の結果、1週間の入院となりました。入院中は、絶食生活に......。体調は回復したものの、もう2度とこんな思いはしたくありません。いったい、日常生活の何が悪かったのか――。
健康的なトイレライフを送るために、陽子さんが今後の生活で選ぶべきなのは「玄米やきのこ類といった食事をやめる」、「踏ん張らずに下剤を活用する」のうちどちらでしょうか。
長年便秘の人は
今回陽子さんが診断されたのは、虚血性大腸炎。なんらかの理由で大腸内の血流が阻害されると発症します。高齢者や高血圧の症状がある人に多いですが、健康な若年層にも起こる場合があります。ほとんどの場合は、便秘によるうんちの滞留や腹圧のかけすぎによって血圧が収縮したことが原因で起こる一過性のもの。陽子さんも、便秘が根本的な原因で発症したと考えられます。
虚血性大腸炎は、一定期間の絶食で症状自体は落ち着きます。しかし、原因となっている便秘を改善しなければ再発の恐れも。正しく排便コントロールができる習慣を身につける必要があります。
陽子さんのように長年便秘の人は、腸のぜん動運動が低下してしまっているケースがほとんどです。玄米やきのこ類は食物繊維が豊富ですが、ほぼ不溶性食物繊維。これを、腸が動きづらくなっているところに大量に入れると、逆にうんちが詰まる原因になることがあります。今回の場合は、それが裏目に出たと考えられます。
つまり、クイズの答えは「玄米やきのこ類といった食事をやめる」。食物繊維をとるときは、海藻類やもち麦・押し麦などに含まれる「水溶性食物繊維」の量を増やすと、うんちが柔らかくなり、するりと出しやすくなります。
「踏ん張らずに下剤を活用する」は、どうでしょう。常に薬に頼っての排便はNGで、便秘解消の根本的な解決にもなりません。しかし、重度の便秘にも関わらず自力で排便しようとすれば、今回のような虚血性大腸炎をはじめ、痔や大腸憩室炎などのリスクを高めてしまうことも。生活習慣改善も含めて下剤を適切に服用し、服薬量を減らしていければ、依存のリスクを下げられます。「どうしても」という場合は、医師と相談のうえ頓服として利用するのが良いでしょう。
病院には状態のメモ持参で
虚血性大腸炎は、便秘との関係が深い疾患です。しかし、生活習慣やストレスとも関連があると言われており、便秘でなくても起こる恐れがあります。発症した場合は、主に大腸の左側が痛くなり、下痢や血便が出ることも。
血便の場合は、潰瘍性大腸炎や大腸ガンなど別の重篤な病気が隠れている場合があります。症状が出たら、すぐに病院を受診しましょう。
その際には、それまでのうんちの状態や痛みの記録があると診察がスムーズ。痛すぎてしゃべれないこともあるので、メモ程度の記録をしておくのをお勧めします。
(文・イラスト:長瀬みなみ)