使わない言葉 小川哲さんが抵抗を覚える「誕生日おめでとう」

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浮いた感じに

   小川さんが「絶対に使わない日本語」というのは、もっぱら日常の話し言葉についてのことであり、小説世界のことではないと理解した。作品中の言葉はいわば道具だから、好き嫌いがあっては仕事に差し支えるだろう。

   もちろん、普段使いの言葉は仕事にも影響する。小説家に比べ 言葉に関する制限が圧倒的に多い記者としての経験からしても、めったに使わない、あるいはなるべく使わない言葉や言い回しは原稿でも用いなかった。物書きとしてもっと気をつけたのは、好きな言葉を多用しないことだった。ふだんのクセがバレないよう心がけた。

   「内臓に染みていない」言葉は使わない、というポリシーは感覚としてわかる。文は人なりとも言うが、作者が使い慣れない言葉は 作中で妙に浮いた感じになるものだ。コラムなどでも、地の文で一つでも新語や若者言葉を使うと、中高年が無理していると思われるのが関の山、読後に痛々しい雑味が残ってしまう。

   「愛してる」はともかく、「誕生日おめでとう」や「あけましておめでとう」までがNGという告白はやや理屈先行か。ちなみに小川さんが生まれたのは1986年のクリスマス。年末年始の祝祭シーズンに 私的な祝い事が埋没する宿命、巡り合わせである。

   「おめでとう」への感覚もおのずと冷めてしまうのだろうか。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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