東京・池袋のサンシャイン水族館の人気者「コツメカワウソ」。飼育員の手から餌を直接食べる姿に、来場者からは「かわいい」の声が上がる。
しかし、サンシャイン水族館で海獣・カワウソを担当している芦刈治将さんは、「かわいい」を使わない。「僕らから、あえてかわいいと発信するのはちょっと違う」との信念だ。「かわいい」以外の魅力を伝えようと取り組む姿を取材した。
売上金は保護団体に寄付
サンシャイン水族館は、「世界ペンギン・カワウソの日 in サンシャイン水族館2023」を開催中。「世界カワウソの日」に当たる5月31日まで、各種イベントを実施している。
期間中は、解説コーナーを設置。カワウソの生態や特徴をわかりやすく説明したパネルや、飼育環境で実際に使っているタオル、おもちゃを展示している。土日には「ShoeZオリジナルエコグッズ」を販売。売上金は、保護団体に寄付される。
イベントは2019年5月に始まった。偶然にも同年8月は、「ワシントン条約(絶滅の恐れのある動植物種の国際取引に関する条約)」で、コツメカワウソの国際間の取引が禁止になった。カワウソの日がある5月に実施することで、その魅力や実態を知ってもらえたらと発信を強化している。
実はワシントン条約締結時、日本への批判が大きかった。日本ではコツメカワウソ人気により、ペットとしての飼育、密輸などが増加していたが、実は、世界に生息する13種のカワウソ(ラッコを含む)のうち7種が絶滅危惧種に指定されるほど、希少な野生動物だ。
日本への厳しい批判
APF通信の2019年8月26日付記事では、「個体数減少の一因となっているのは、日本でのカワウソ人気だ」と厳しい指摘がある。また、世界的な環境保全団体・WWFジャパンの2019年8月27日付投稿によると、東南アジアで2015~17年に押収された59匹の生きたカワウソのうち、少なくとも32匹は日本に向けられたものとして、日本と密輸との関係が示されている。
芦刈さんによると、コツメカワウソは、動物園や水族館、個人飼育なども含めると、日本国内では、約300匹は飼育されている。また、コツメカワウソは人気種で、その容姿やサイズ感、仕草などから、「かわいい、飼ってみたい」などの声をあちこちで耳にしているという。だが、「僕らから、あえて『かわいい』と発信するのはちょっと違う」と芦刈さんは話す。
カワウソは、当然「かわいい」だけではなく、においも放つ。また、芦刈さんの飼育員キャリア20年以上の中で最も飼育が難しいというほど、未知な部分が多く、国内外で置かれている状況も非常にデリケートな生き物だ。こうした全てを含めて、コツメカワウソの「魅力とおもしろさ」だと語る。
サンシャイン水族館の取り組みによって「かわいい」の一歩先、具体的にはカワウソの生態や、多くのカワウソが絶滅の危機にさらされている現実が知られるようになれば――。
幼い子どもから、「かわいいので飼いたい。どうしたら飼えますか」と質問を受けることもあると芦刈さん。そのときは「飼えない」とストレートには否定はしない。代わりにカワウソの飼育の大変さや、かわいいの裏側に隠れてしまっているその魅力、展示されているコツメカワウソが絶滅危惧種である事実を説明して、「もし、周りに『飼いたいね』という子がいたら、教えてあげてね」と呼びかけるという。こうして、少しずつカワウソを取り巻く環境や実態が良い方向に変わっていけばいい、と望んでいる。