【連載】お腹トラブル天国と地獄 ~運命の選択~
20代男性の健太さんは、新卒3年目の営業マン。1人で行う業務も増えてきて、少しずつ責任のある仕事を任せてもらえるようになってきました。
そんな折、上司の異動やフル出勤の解禁など、健太さんには生活の変化が起こります。すると数か月後、健太さんは遅刻や欠勤が目立つように。電車に乗ると激しい腹痛と下痢に襲われてしまうのです。一体なぜ......。
休職中は症状出なかったのに
健太さんが新卒で配属された時から面倒を見てくれた上司が異動し、営業部の雰囲気はガラリと変わりました。新上司は、全く異なるタイプ。頭脳明晰でロジカル、マネジメントのスタイルも細かな行動管理を行うようになりました。健太さんは、これまで以上に詳細な報告や資料の提出を求められ、多くの時間を仕事に割くようになります。
また、新型コロナウイルス感染症の感染対策が緩和され、年始から週5日のフル出勤に。入社1年目からリモートワークが日常だった健太さんにとっては、勤務形態も大きく変化しました。電車に乗る機会もほとんどなかったため、学生以来の朝の乗車体験。初めの頃は気合でしのいでいたものの、春になると乗客が増え、ストレスを感じるようになりました。
春先から、健太さんに遅刻や欠勤が目立つようになってきました。人事面談を行うと、「電車に乗ると急激にお腹が痛くなり、下痢をもよおしてしまう」と言います。途中下車を強いられる上に、いつ腹痛が襲って来るかわからず、ひどい時は各駅で電車を降りることも。人事担当者との話し合いの結果、2週間程度休職することになりました。
休職中は特に症状が現れなかったため、健太さんは職場へ復帰。しかし、通勤が始まって満員電車に乗ると、また腹痛や下痢の症状が現れてしまいました。
健太さんがお腹の不調を改善するために行うべき対策は、「会社に相談して配置替えを行う」、「時差通勤して満員電車を避ける」のどちらでしょうか。
転職したら下痢が起こらない...なぜ
結局、健太さんは再び休職してしまいました。その後、職場には復帰できず、転職することになります。
転職後も満員電車での通勤は続いていますが、以前のような腹痛や下痢の症状は頻繁に起こらなくなりました。
健太さんは、病院で検査を行い「過敏性腸症候群(IBS)」と診断されました。これは、なんらかの理由で内臓の神経が過敏になり、腹痛や排便異常を引き起こす病気です。精神的ストレスが原因になっている場合が多いです。
休職中には症状がなかったこと、転職後は満員電車に乗っても腹痛・下痢が起こらないことなどから、健太さんは上司とのコミュニケーションや関係性に原因があったと考えられます。つまり、正解は「会社に相談して配置替えを行う」。前職では配置換えが行われていれば、転職という選択は不要だったかもしれません。
原因は人それぞれ。満員電車に乗ること自体がストレスとなって症状が出てしまう人もいます。原因をなるべく早く、的確に把握して対策をすることが必要です。
そのためには、自分に素直になり、何に不快感を抱くのかの理解からスタートを。また、我慢を避け、改善のために人の力を借りることも大切です。職場環境は、自分ではどうにもならないケースは多いので、周囲に協力してもらい解決につなげるのが理想です。企業が人事面談を行う場合は、言いづらい内容でも相談しやすい環境作りが求められるのではないでしょうか。
原因不明の不調は受診を
IBSは、内視鏡による通常の検査を行っても炎症や腫瘍などの排便異常などを引き起こす原因が見つからないにも関わらず、慢性的に症状が続いている場合に診断されます。
しかし、大腸ガンなどのリスクが低いと考えられる20代では、問診だけで診断がつく場合も。IBSは、10?20代に発症しやすく、高齢になるほど発症のリスクや症状が減っていく傾向にあります。お腹の調子が慢性的に悪いのに原因がわからない場合は、一度病院を受診してはいかがでしょうか。
(文・イラスト:長瀬みなみ)