一人では届かない場所も、三人ならば
実は同作、20年3月の再演時に「本番二週間前に中止を余儀なくされた」過去がある。新型コロナウイルスの影響で、劇場を使えなくなったためだ。舞台関係者の誰にも非がない、つらい決定だった。
岩永さんは当時、現ユニットに加入しておらず、客演として参加予定だった。「コロナをなめていました。まあ、大丈夫だろうと」と、振り返る。発起人の澤田さんが「中止になることも覚悟のうえ」で準備を進めていたのに対し、「自分には、覚悟はなかった」。衝撃のあまり、稽古場に入れなくなった仲間もいたという。
22年11月にユニットに加わった湯本さんも、新型コロナウイルスがはやり始めた当初は、すぐ収まるだろうと予想していた。しかし1か月、半年と経つにつれ、「自分が変わらなくても、周りが変わってしまう」と気づいた。それまで演劇団体に所属していなかったが、「悩んでいないで、自身の可能性や活動の幅を広げるために、何でも行動に移してみなければ」と思い、今に至る。
澤田さんにとって、特別企画一作目として「蒼き空には嵐は吹かず」を再演するのは、新たな仲間と挑むリベンジマッチ。「一人で長く好きにやってきて楽しかった一方、限界も見えていた」だけに、二人の存在が支えになったそう。個人のスキルを伸ばしながら互いに掛けあわせ、良い意味での爆発、化学反応を起こしたいと話す。
澤田さん「岩永は明るいムードメーカーで、『見ていないようで、色々見てくれている』。湯本は几帳面で繊細、そしてとても親切。正反対なのがありがたい」
湯本さん「澤田さんは存在が大きくて、指し示す方が間違いないと信じられる人です。背中を預けられますね。まさしく原動力です」
岩永さん「自分にとってこのユニットは、『やりたいことをやらせてくれ、自分が何を、どこまでできるのかがわかる』場所。今回、初めて殺陣(たて)師にも挑戦できました」
新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けは、5月8日に「5類」へ移行する。生活様式や町の賑わいはコロナ禍前に戻りつつあるようだが、三人曰く「客足はまだまだ、以前ほどではない」。だからこそ、個人の力と色をよりあわせた舞台で、「日々の中にあった、演劇を観に来る楽しさ」を、広く伝えていきたいという。