SNSという地獄 橘玲さんは「それは望まれて生まれ来た」と

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欲求は不滅

   一時のニーズで発明(開発)してみたものの、人類の手に負えなくなったテクノロジーの最たるものは「核」だろう。その平和サイドを担う原発も、ひとつ間違えば制御不能になりうることが福島の事故で実証された。廃棄物の処理にも天文学的な歳月が要る。

   橘さんは「失敗は成功の母と言うが、失敗とはある意味、役に立たない発明でもある」と書く。新しい結果を生んでも放置され、「母」にもならず忘れ去られた技術は多い。

   その点、核兵器や原発はいまも現役であり、無用どころか不気味な存在感を放つ。もちろん、冷戦期を「核による平和」とする見方はあるし、原発が電力需要を賄ってきたのも事実である。だが核に関する限り、人類にとっては脅威のほうがはるかに大きい。

   他方、SNSのほうはそれぞれが脱出できる「地獄」である。ユーザーがアカウントを消して卒業すればいいだけ。誹謗中傷や炎上のリスク、嫉妬や自己否定からも解放される。ただし、SNSの存在理由 かつ本質でもある「いつも誰かとつながっていたい」「自分の評判をすこしでも高めたい」という欲求は不滅だ。そうした欲求を容易に実現してくれるSNSの「極楽」を一度でも味わってしまえば、簡単には離れられない。

   核の存在を前提とした国際秩序と同じように、SNSがあることを前提とした社会は容易に変わらないだろう。それによる数々の害毒は、回転寿司店の消毒作業のように、個人や社会がそのつど対症療法でしのいでいくほかない。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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