草や木、車、ビル、鉄塔まで、あらゆる建造物を壊せる空間がある。メタバース(仮想空間)プラットフォーム「VRChat」内のワールド「Saya's Home SPRING 2023」だ。
レーシングサーキットや市街地、神社などさまざまなエリアで構成され、約4.8キロ平方メートルの面積を有する広大なワールド。豊富な破壊手段を楽しめる世界を取材した。
刀やガトリング砲を駆使して
「Saya's Home SPRING 2023」では、野球バットや炎のような攻撃を飛ばせる刀、ガトリング砲、ロケットランチャーなど多数な武器をそろえる。
現在のおすすめの破壊スポットは「駐車場」と、この空間の作者でワールドクリエイターのさやさんは話す。約120台の自動車が並んでいる場所だ。
設置されているセダンに向かって、さやさんが刀で攻撃を放つと、車はすぐに四散。ボンネットやフロントドア、タイヤ、ホイールとパーツが細かくはじけ飛び、バラバラになって落ちていく。VRゴーグルで見ていると、大量のパーツがあたり一面に散らばる様子は壮観だ。
記者も壊してみた。市街地で刀の炎を放てばビルは飛んでいき、道路標識はバラバラに。東京タワーのような塔にガトリング砲を放てば、弾が当たったところから鉄骨が次々に落ちてくる。思いつくままに建物を壊す体験は新鮮で、少し爽快だ。
市街地やタワーといった各エリアには、ワールドの入口にあるボタンでワープできる。またヘリコプターや自動車といった移動手段も用意されている。また、「がめがめ波」という手のひらから出現する光線で建物を攻撃できるユニークな武器も用意している。
約80万個ものオブジェクト
もともとは、破壊を目的としたワールドではなかったとさやさんは話す。2022年春ごろに、自身の拠点となる「ホームワールド」としてまずは部屋の中のような空間を作った。ある日、部屋から見える外の風景を作るのに凝りはじめ、次第にワールドの面積が増えていったという。
3Dモデルを配置しきれいな風景を作っていく中で、「楽しい要素」もワールドに加えたいと考えた。このとき、ふと「破壊できたら面白いんじゃ?」と思いつき、建造物を壊せるギミックを取り入れるようになったという。
破壊ギミックの裏には、工夫やこだわりがある。ワールド全体にあるオブジェクト(3Dモデル)の数は、破壊した時に出現する細かいパーツも含めると約80万個あるという。
80万個のオブジェクトを常に配置しているとワールドに大きな負荷がかかり、まともに動作しなくなる。そこで、ユーザーが所定の場所に近づいたときに都度、3Dモデルが自動的に生成される仕組みを作った。
普段は主に負荷の軽いオブジェクトを配置しつつ、接近時や攻撃時など必要なときのみ重い3Dモデルを出現させるようにし、負荷を抑えているとのことだ。
制作のモチベーションには、「他のワールドに無いものをやってみたい」という思いがあるとさやさんは語る。訪れたユーザーに「楽しいと言ってもらいたい」との気持ちも、動機につながっているとのことだ。
半面、「Saya's Home」の魅力は破壊だけではなく、「きれいな景色もあると伝えたい」と語る。ワールド内には「隠し絶景ポイント」が10か所あり、それぞれで美しい風景を楽しめるのだ。
たとえば「さや温泉」という温泉旅館のようなエリア。所定の場所で、神社の参拝時におなじみの「二礼二拍手一礼」の動作を数回行うと、露天風呂に「パーティクルライブ」という演出が出現する。クラシック音楽をBGMに、空が夜景に切り替わる。
露天風呂に配置されている桜の木からはピンク色の粒子が、上空には青や黄色の幾何学模様が出現し、それぞれが光輝く。壊すだけでなく、こうした隠しポイントを探しだすのも、このワールドの楽しみ方のひとつだ。