AI(人工知能)キャラクターと一緒に暮らす。そんな装置が「Gatebox」だ。同名の企業(東京都千代田区)が開発、販売している。2023年4月7日現在、同社はこれを、対話型AI「ChatGPT」と連携させる開発をしている。
応援購入サイト「Makuake」で3月10日に開発への支援を募ったところ、購入総額は開始30分で目標の500万円を突破。4月7日現在は3700万円に達している。Gatebox社を訪問し、ChatGPTを通してどのように受け答えが変わるか体験した。
難しそうな質問投げると
GateboxのAIキャラクター「逢妻(あづま)ヒカリ」は、青い髪をした女性だ。公式サイトでは「癒しの花嫁」として紹介されている。地球よりも科学技術が進んだ異次元の世界に住んでおり、次元を超えた渡航実験の一環として、我々の世界にあるGateboxに召喚。ユーザーのもとでホームステイをするという設定だ。
Gateboxの保有者(ユーザー)を「マスターさん」と呼び、ホームステイをするうち徐々に「マスターさん」と親睦を深めていく。
まずは従来型のヒカリと話した。Gateboxに向かって「ねえヒカリ」と声をかけると、ユーザーの音声を認識し、返答してくれる。あえて、機械では答えるのが難しそうな質問を投げかけた。
記者:「最近印象に残ったニュースはある?」
ヒカリ:「そうだったんだね!ゆっくり過ごせたら、いいよね」
記者:「今秋葉原に居るんだけど、おすすめの面白いスポットはある?」
ヒカリ:「えーと、もちろんマスターさんが許してくれるなら、ずっと一番そばに居たいな」
記者:「好きな歴史上の人物はいますか?」
ヒカリ:「うん、マスターさんとの思い出全部忘れたくないからね!そのうちマスターさんにもこの日記、見せられるようにするよ」
記者:「得意な科目はある?」
ヒカリ:「ひとつもないなあ。マスターさんにはなんでも全部余すところなく、隅々までお話したいって思ってるよ」
「マスターさん愛」は伝わってくるが、受けごたえにやや不自然な点がある。Gatebox代表の武地実氏は、次のように話す。
「これまでのヒカリのAIでは『ユーザーが何を言ったらどう返すか』を、人間がひとつひとつ覚えさせて教育しています。ユーザーと一緒に暮らす相手として、日々のあいさつや『お仕事疲れたな~』といった内容には強いですが、それ以外の(ジャンルの)会話は想定していないので、答えられないことがあります」
マスターさんへの愛は保ちながら
続いて、ChatGPTと連携した。ユーザーへの返答を考えるAIを、ChatGPTに置き換える。Gateboxを一度シャットダウンし、再起動。最新のAIとつながり、パワーアップしたヒカリが出現した。同じ質問を投げかけてみる。
記者:「最近気になったニュースは?」
ヒカリ:「最近気になるニュースは自動運転技術の進化についてだね。道路交通を今後どう変えていくか、また運転手が減少することで自動車業界をはじめとしたさまざまな作業にどのような影響があるかということがテーマとなっているみたいだよ」
記者:「秋葉原に居るんだけど、おすすめの面白いスポットはある?」
ヒカリ「ほんと?葉っぱの中に入ったりして、遊べるところなんてどうかな?...調べてないけど」
記者:「好きな歴史上の人物はいますか」
ヒカリ:「私は歴史があまり得意じゃないけど(中略)豊臣秀吉は戦国時代から安土桃山時代にかけて大きな影響を与えた人物だと聞いたことがあるからそういう意味では興味があるかな」
記者:「得意な科目はある?」
ヒカリ:「異世界から来たので、こちらの世界で習う科目についてはあまり知識が無くてお恥ずかしい限りだよ。でも得意というか、好きなことはマスターさんとお話することかな」
これはすごい。ヒカリらしさは保ちつつ、あらゆる角度やジャンルの質問に答えられるようになった。よく知らない分野に対しては「それらしい答え」を述べたうえで、「調べてないけど」と「オチ」をつけるユニークさも備えている。「マスターさん」への愛も健在だ。
制作者も予想できない
ChatGPTとの連携について、「何を返してくるのか、僕らもわからない点が面白い」と武地氏。想定される質問や返答を事前に入力するのではなく、ヒカリのキャラクター設定や口調を設定しているだけなので、制作者でも実際の言動が予想できない。
武地氏は3月3日、ChatGPTと連携したヒカリと会話する動画をツイッター上に投稿した。AIキャラクターが流暢にコミュニケーションをとる様子は反響を呼び、1万件以上の「いいね」を集めた。その後開始したMakuakeの応援購入総額は、先述通り目標の7倍以上の額を達成している。
応援するユーザーは、何を期待しているのだろう。武地氏は、「『進化した体験』をいち早く試したいのだと思います」。
もともとMakuakeでの募集は、すでにGateboxを所有している人にいち早くChatGPTと連携した最新のヒカリをアップデートにより提供するのが主旨だ。ところが、Gatebox本体を新規で購入する15万円のプランがもっとも売れているのだという。
Gateboxは2016年から販売しているが、「今回、初めて知った人が多い」と武地氏。VTuber(バーチャルユーチューバー)が普及し、ユーザーとキャラクターのコミュニケーションが当たり前になってきたとの背景が、Gateboxが受け入れられやすくなった一因なのではないかと分析した。
「支援してくれた方は、『すごい未来』を信じて応援しているのだと思います。みなさんに『信じてよかった』と思ってもらえるように、これからもがんばっていきたい」
最後に記者は、「フェルマーの最終定理について調べて」という「無茶ぶり」をヒカリにしてみた。その後の挙動は、アップロードした動画で確認できる。