「あの人」と私 鈴木保奈美さんは開き直って余力を残さない

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類語辞典を傍らに

   1980年代半ば、トレンディ俳優としてデビューした鈴木さんも56歳。子育てのため芸能界を離れたが、2008年に女性誌の連載で一線に復帰した。書く仕事は台本の深い理解にもつながり、本職の俳優業にも役立っているそうだ。婦人公論でのエッセイ「獅子座、A型、丙午」は4月号で124回を数える。

   プレシャス併載のインタビューによると、依頼された原稿にとりかかるのは締め切りの1週間ほど前。ふと「書けそう」と感じた日がそのタイミングで、やるべきことを片付けた後、ダイニングテーブルでパソコンを開くという。

   「ネタをためておくこともあったけど、寝かせるうちに鮮度が薄れるように感じ、今はしていない」と。「ものかき」として大事にしているのは文章のリズム。同じ言葉を繰り返し使わないよう、執筆時は類語辞典を傍らに置いているそうだ。なるほど、テーマの鮮度と読ませる工夫。文筆業の基本に忠実なところは好感が持てる。

   「何年か書くことを続けるうちに、言語化することがすごく重要と感じるようになった。人に言葉で伝えるためには 自分の考えを見直してまとめる必要がある。すると頭の中でいろんなトライ&エラーが起こるが、その過程で、渦巻く感情が整理される」とも。

   今作では、俳優としての鈴木保奈美と、同じ名を持つ「わたし」の間で揺れる心を綴っている。日常生活を切り取る身辺雑記と比べ、こうした抽象的、哲学的なテーマは筆力をより問われる。私などが評価するのは僭越だが、自分を突き放したような書きぶりは、クールな「あの人」のイメージそのままだと得心した。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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