日本中が歓喜に震えたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の裏で、「メタバース」上でも草野球大会が繰り広げられていた。メタバースプラットフォーム「VRChat」上で実施されている「VR草野球-春季大会-」だ。
大会は玩具「野球盤」を模したワールド(空間)「YakyuBan(野球盤)」を使って実施。仮想空間の中に、時速160キロメートルの速球が行き交う。VR記者カスマルは、準決勝の様子を取材した。
先頭打者ホームラン飛び出した
VR草野球8チームがそろった今大会は、2023年3月17日~25日にかけて実施。22日の準決勝第2試合は、「リアアリスアイドルズ」と「100 Mile Splitters」がぶつかった。
整列後、両チーム「声出し」を実施。100 Mile Splittersのエース・alpaca選手は「(相手に)憧れすぎないようにしましょう」と呼びかけた。WBC日本代表の大谷翔平選手が米国戦前に行なった声出しのパロディーだ。
試合は玩具「野球盤」やテレビ企画「リアル野球BAN」のような形式。ピッチャーとバッターとキャッチャーを除き守備につく野手は居ない。「Single Hit(単打)」「Double Play(併殺)」などと書かれたパネルがフィールド上に設置されており、打球が到達したパネルに基づき打席結果が決まる。
投球はピッチャーがVRコントローラーを振る勢いで球速が決まり、コンローラーの角度によって任意のスピンをかけて変化球を投げられる。
先攻は100 Mile Splitters。主催のNinoさんによると、「ルーキー軍団」ながら今大会最多得点を記録している強豪だ。先頭打者のjiro選手を、リアアリスアイドルズ先発投手・ムク選手が迎え撃つ。
最速160キロのピッチングにjiro選手が粘りを見せ、フルカウントに。最後は110キロの沈む球をとらえ、打球がアーチを描いた。先頭打者ホームランだ。「ナイスホームラン!」との声が球場に響く。その後もソロ本塁打や長打が飛び出し、100 Mile Splittersは初回3得点をマークした。
有言実行の「反撃」
1回の裏、100 Mile Splittersからはalpaca選手が登板。リアアリスアイドルズの1番は野球経験者のサナキ選手だ。初球から特大ファールを放ち、球場がざわつく。しかしalpaca選手が160キロの超高速スライダーやチェンジアップを混ぜる巧みなピッチングを披露。アイドルズ打線は沈黙した。
ハイライトのひとつは、5対0で迎えた2回の裏、無死一塁で再び回ってきたサナキ選手の打席だ。初回に空振り三振を喫したサナキ選手は、バッターボックスに立つと「僕は同じ相手に二度負けない」とリベンジ宣言。
そしてalpaca選手の2球目を、ライト方向ギリギリへ大きく引っ張った。球は切れずにスタンドイン。有言実行の2ランホームランに、場内が沸いた。サナキ選手は記者のカメラの前に走ると、メキシコ代表のランディ・アロザレーナ外野手のように腕組みポーズを見せた。
その後も熱戦は続くが、最後まで「100 Mile Splitters」がリードを保ち勝利。13対3の大差で、決勝(3月25日)へコマを進めた。変化球の多彩さや駆け引きにリアリティーがあり、現実の野球のように見ていて飽きない試合だ。
大会主催のNinoさんによると、「YakyuBan(野球盤)」は「はむへり」さんというユーザーが作ったワールドだ。毎週土曜日、ここに野球好きが集まっての「練習会」イベントが実施されているが、大会はひとつも存在せず「もったいない」とある日Ninoさんは考えた。そこで出場チームを募り、22年8月から自身で大会を開催するようになった。「野球好きの方が多く、(野球大会としての)レベルは高いです」と語る。
春・夏の甲子園や秋季大会という現実の高校野球の大会時期にあわせて開いている。今回は春の甲子園(第95回記念選抜高等学校野球大会)のタイミングに平行して開催した。「センバツに合わせて開いたら、偶然WBCも開催されていました」と語った。