ChatGPTに何かを相談すると、とてもマジメに返事をくれる。たとえば、こんな悩みを相談してみた。
「36歳男性です。人間関係が狭く、友達が少ない気がしています。どうしたらいいでしょうか?」
誰の悩みかって? これを書いている僕の悩みだ。それはさておき、回答はこんな具合に。
「役に立つ」けど...なんだか物足らない
「友達が少ないと感じていることは、多くの人が抱える悩みです。しかし、適切なアプローチを取ることで、新しい友達を作ることができます。以下にいくつかのアドバイスをまとめましたので、ぜひ参考にしてください。 1.自分の趣味や興味を追求する:自分の趣味や興味に合う活動に参加することで、同じような趣味や興味を持つ人々と出会うことができます。例えば、スポーツチームに参加する、ボランティア活動に参加する、読書会に参加するなど、様々な活動があります。 2.新しい場所を探索する:新しい場所に行くことで、新しい人と出会うことができます。新しい場所には、カフェやバー、美術館、公園などがあります。 3.参加するイベントを探す:イベントに参加することで、同じような趣味や興味を持つ人々と出会うことができます。例えば、音楽ライブ、フェスティバル、セミナーなど、様々なイベントがあります。 4.友達を紹介してもらう:自分の友達や知り合いに、新しい友達を紹介してもらうこともできます。自分の友達や知り合いは、新しい人と出会うきっかけを持っていることがあります。 5.オンラインでつながる:オンラインでコミュニティやグループに参加することで、同じような趣味や興味を持つ人々とつながることができます。例えば、Facebookグループ、Discordサーバー、オンラインゲームなどがあります。 以上のアドバイスを参考に、新しい友達を作る機会を探してみてください。また、新しい人と出会うためには、積極的に話しかけたり、自分から行動することが大切です。」
とてもためになる回答ではある。ためにはなるのだが、少し物足りない気がする。
ChatGPTに「辛口」の答えを言わせたい
思えば「悩み相談」といえば、昔からメディアでも人気のコンテンツだ。読売新聞で100年以上続く「人生案内」をはじめ、作家・伊集院静氏の「悩むが花」(週刊文春)、作家・演出家の鴻上尚史氏「ほがらか人生相談」(AERA dot.)、ラジオ番組「ジェーン・スー 生活は踊る」の「相談は踊る」――。
ChatGPTの悩み相談には、どうもそんな、名物連載のような深みがない。
たとえば、相談者に単に寄り添うだけでなく、時に突き放し、時に叱咤する。そんな「辛口」の部分も、悩み相談にはほしい。
ということで、ChatGPTに、「辛口」の悩み相談をさせてみよう。
あらためておさらいすると、ChatGPTは米OpenAIが提供する対話型のAIサービスだ。ユーザーが投稿した内容に応じて、人工知能が生成した答えを返してくれる。
実は、この投稿の際、こちらが「こういう形で答えてくれ」というと、かなりそれを反映してくれる。たとえば、「こういうキャラになりきって答えて」と投稿すると、口調なども含めそのとおりに「演じて」くれる。
「キャラ付け」するためにはどうすれば?
キャラ付けの方法については、THE GUILD代表の深津貴之さんのnote記事「ChatGPTにギルガメッシュ王の人格を与えるには?」がわかりやすい。一人称やキャラの性格、また口調の例を打ち込むだけで、決して難しい話ではない。
今回は「辛口」の悩み相談をしてくれる回答者として、「ベテラン作家・長命寺三郎」というキャラを作ってみた。「長命寺三郎は60歳、高名な文学賞をかつて受賞し、文学・文化に豊かな見識を持っています」「長命寺三郎は歯に衣着せぬ毒舌家であり、Userの質問に対してもぶっきらぼうな回答を行います」などと、「設定」を与えていく。
この設定を与えたうえでChatGPTに悩みを相談するのだが――今一つ、うまくいかない。変わるのは表面的な口調だけで、答える内容はもともとのChatGPTの回答とほぼ一緒だ。回答内容にまで「キャラ」を反映させることがなかなか難しい。
「普通の回答」をまずは作らせて...
上記の深津さんのツイートなどを参照すると、一気に望む答えを書かせるより、いったん「中間回答」を作らせてから、それをアレンジさせていくとうまく行きやすい、らしい。
そこで、まず「普通の回答」をChatGPTに書かせてから、その普通の回答を「逆説的に言い換え、一見乱暴ながらも役立つような辛口の回答」を作成するように指示を出してみた(「普通の回答」は出力しないようにしている)。
そうしてできたのが、長命寺三郎先生によるこちらの答えだ(質問は冒頭の「友達が少ない」)。
「友達が少ない?それはあんたがつまらないからだよ。もっと自分自身を鍛え、充実した人生を送れば自然と人が寄ってくるもんだ。まずは自分自身を見つめ直してみろ。あんたが本当にやりたいことって何だ?それに向かって努力して、自分自身を磨けば、人間関係も自然と広がる。心配なら、新しい趣味を始めてみたり、サークルに入るのもいいだろう。ただし、何も行動しないで、ただ自分の不幸を嘆いていても何も変わらないことだけは忘れるな」
どうだろう、なかなかそれらしいものになったのでは?
「お嬢様」に答えさせてみよう
とはいえ、ちょっとまだ優等生的な気もする。
悩み相談といえば、回答者の強烈なキャラを生かした、ぶっ飛んだ答えが名物になっているものもある(たとえば作家・北方謙三氏のような)。そんな回答者が作れないか。
というわけで、上記のプロンプトを元に「大富豪のお嬢様・英愛院マリア」というキャラを作ってみた。いかにもなお嬢様言葉で話す、世間の常識からかけ離れたキャラ、という設定だ。
「ごきげんよう!そうですわね、人間関係が狭く友達が少ないとお悩みとは、残念ですわね。わたくしにはもともと友達がいっぱいいたので、お力になれるかもしれませんわ。まずは、趣味に打ち込むといいですわ。高級な趣味であればあるほど、共通の趣味を持つ人と出会いやすいですから、高級なお菓子作りや紅茶のティータイムを習ってみるのはいかがでしょうか?また、上流階級のパーティーに参加することもおすすめですわ。そこで、同じ趣味を持つお嬢様と出会えるかもしれませんわよ」
うっかりすると常識的なことや庶民的ななことを言いだしてしまい、なかなか難しい。
「イルカ」と「マッチョ」に答えさせる
もっと突拍子もないことを言わせたい。今度は「普通の回答」と「真逆」のことを、答えさせるようにした。回答者は、「人語を解し、人類は愚かだと考えているイルカ・キャッピー」だ。
「キュキュキュ!ボクから見たらキミの悩みはとっても愚かだね。イルカの世界では、友達という概念なんて存在しないから。イルカたちは、家族や群れの中で生きているし、社交的であることも必要ないんだ。イルカの文明は人類よりも遥かに進んでいるから、キミもイルカのように自分の力で生きていけるようになったらいいね」
「普通の回答」を否定し、とにかく筋トレを勧めてくるよう設定した、マッチョ回答者「マッスル剛太郎」も作ってみた。
「マッスル!君は人間関係が狭く、友達が少ないと感じているんだね。それは、どうやら心の孤独感が原因のようだ!心の孤独感を解消するために、最善の方法がある。それは、もちろん筋トレだ!筋トレをすることで、自分自身を鍛えることができ、自信をつけることができる。そして、ジムに通うことで、同じ目的を持った人たちと出会い、新たな友達を作ることができるだろう。また、筋トレにはストレス解消の効果もあるので、心のバランスを整えることができる。さあ、一緒に筋トレして、新しい友達を作ろう!」
何がしたいのか、よくわからなくなってきた。
応用の幅は広がる
以上、ChatGPTにキャラを与えて、こちらの相談に答えさせた結果を紹介した。
OpenAIが公開したChatGPTのAPIを使い、さらに上のような「キャラ付け」を組み込めば、たとえばキャラクターがユーザーの質問に答えるLINEボットなども作れる。また、「中間回答」を作らせるやり方は、少し複雑なことをやらせたいとき(たとえば筆者の本業だと、プレスリリースを原稿化させるとか)、かなり有効だ。
一方で、AI周りのスピード感は早い。2023年3月14日にはOpenAIが、ChatGPTのベースでもある言語モデル「GPT」シリーズの最新版「GPT-4」を発表したが、その性能はさらに高まっている。今回のようなまどろっこしいことをしなくても、AIが人間以上に気の利いた答えを返してくる日は、そう遠くないかもしれない。
最後に、「マッスル剛太郎」にもう一度相談してみよう。
Q:AIの進歩についていけません。どうすればいいでしょうか。
A:マッスル!AIの進歩についていけないと悩んでいるか?それは筋力不足だ!AIはいずれ人間を超える存在になるかもしれないが、今必要なのは諦めではなく、筋トレだ!脳も筋肉だ!脳みそを鍛えれば、AIに負けることは絶対にない!脳トレも大事だが、筋トレで体を鍛え、自信を身につけることが重要だ!自分に自信があれば、AIに負けないぞ!筋トレで自信をつけ、AIの進歩に立ち向かおう!
(竹内 翔)