「ビデオ会話ができるのに、ビデオ会話ツールじゃない」
「oVice(オヴィス)」代表取締役のジョン・セーヒョンさんがそう語るのは、社名と同じ名称のビジネスメタバースサービスだ。二次元の仮想オフィスに自分のアバターを出社させ、同僚とコミュニケーションを図れる。
一見、従来型のビデオ会話サービスと変わりない。しかし、体験するとまるでSF映画やアニメで憧れた、「そこにいない相手とその場で話している感覚」が味わえた。
「Zoom」や「Discord」との違いとは
J-CASTトレンド記者は2023年3月8日、期間限定でオヴィスを体験できるコクヨ(東京都港区)東京品川オフィス「THE CAMPUS」を訪れた。
「リアルとオンラインの融合」をうたっているが、最初に疑問に思ったのは、「オヴィスと、広く普及しているビデオツールサービスとの違い」だ。
「Zoom」や「Discord」といったビデオ通話をもったコミュニケーションツールが、ウェブ会議やリモート授業のツールとして一般化してきた。これらとの違いについて聞くと、ジョンさんは、
「そもそもビデオ会話ツールではないんです」
と答えた。サービスの「ovice」という名称には、「office(オフィス)」という空間が大事という考えが根本にある。そのため、「会話がないと成り立たない」ビデオ通話サービスではなく、「会話がなくても成り立つ」サービスだというのだ。
近づかないと「聞こえない」
実際に体験してみると、ジョンさんの説明の意味がよくわかる。取材先の部屋には、バーチャルオフィスを映し出すボードとタッチパネルが設置されていた。バーチャルオフィス上では、オヴィス社員のアバターが会議室やデスクにいる。アバターに持ち主の顔が映し出されているものも。これは、カメラがアバターの持ち主の顔を自動検出し、カメラの中心に常に顔が映るようになっているという。
記者もアバター姿となり、バーチャルオフィスに入って2人以上が集まる場所に進んでみた。一定の距離まで近づくと、2人組の会話が聞こえ、話の輪に入っていける。逆にそこから離れていくと、会話は聞こえなくなり、フェードアウトする。距離だけでなく、矢印によって左右の概念も表現されるため、「自分が話しかけられている」と感覚的に理解できる。
こんな配慮もある。「会議室」に記者のアバターが近づいても、室内の会話は聞こえない。「入室」すれば会議に参加可能で、自分の顔を映すことができる。ただし設定によっては、部外者は参加できない。
東京大阪間でつながる
今回取材したのは、コクヨのオフィス内に一時的に設置された、体験用展示施設だ。同社は、実際にオヴィスを採用している。実在するオフィスをバーチャル上に再現。さらに東京と大阪の拠点を繋げるようにした。
実際のオフィスのエレベーター前には大型のタッチパネルが設置され、出社している社員の居場所がバーチャルオフィス上で確認できる。各自が携帯しているスマートフォンのアプリに位置情報機能を持たせ、オフィス内には位置情報を特定できる「ビーコン」を設置。これにより、社員がどこにいるかをほぼリアルタイムで把握しているという。さらにタッチパネルからは、個別の社員へ呼びかけもできるそうだ。
これらの機能は、フリーアドレスを導入している会社では社員の在籍確認でいっそう効果的だろう。また地理的に離れたオフィスを繋げば、遠方の社員同士でも、距離を感じずに簡単に雑談や軽い相談のできる状況を作れる。
一方で、オヴィスが「監視ツールじゃないか」との質問をぶつけられることがあるとジョンさん。しかしこれは、実際のオフィスでも起きている社員の行動を「見える化」しただけだと言う。「新人と先輩が話している」、「課長は会議で席を外している」、「あの人、今休憩中」といった各自の動きを、オンライン上で分かるようにしているのだ。
会議中のメンバーも、もちろんバーチャルオフィス上で可視化している。仮に会議の参加者が幹部クラスだと、社員はその重要性や緊急性を感じ取り、程よい緊張感を生んでくれるそうだ。