そのまま詩になっている
作家の池澤夏樹さんは3月14日、朝日新聞に寄稿した追悼文で、大江さんに詩集はないが、「彼の小説のタイトルを見ればそれがそのまま詩であることは歴然としている」と書いている。
前述の『芽むしり仔撃ち』『洪水はわが魂に及び』のほか、『燃え上がる緑の木』『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』『みずから我が涙をぬぐいたまう日』『「雨の木」を聴く女たち』などの書名を挙げている。「そして、これらの小説の本文はそのタイトルを冠として戴いて当然の密度のある文体で書かれている。それが二百ページでも七百ページでも緩んだところがまったくない」と強調している。
そうしたタイトルが、今も引用されているのではないかと思われるケースもある。『見るまえに跳べ』は大江さんの23歳の時の作品だが、同じタイトルの動画が最近、YouTube配信で人気だ。登録者66万人。こちらは、「ゆぅくん(3歳)とじぃじが織りなすコントのような日常」を伝えている。大江さんの死で初めて、このYouTubeと大江さんの作品タイトルが同じだということを知ったファンもいるようだ。