若者の投資熱 伊集院静さんは「ラクして生きるなかれ」と喝

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カネより品性

   低賃金の派遣労働や短期のアルバイトが増え、少子化で将来の年金もどれほどもらえるか分からないご時世。日本人は投資より安全第一の貯蓄を選好するが、この低金利では老後資金も心もとない。

   そこで政府は、金融庁を旗振り役に投資教育に力を入れる。国を頼らず、自己責任で蓄えましょうと 昨春から、新たな指導要領に基づく高校家庭科の授業で、金融や投資の知識を学ぶことになった。

   伊集院さん、そうしたバックグラウンドは承知の上での批判と思われる。若いうちから投資に親しんでもらい、フレッシュマネーを市場に呼び込みたい関係者は鼻白むだろうが、私はあえて作家の頑固一徹を支持したい。

   もちろん、金融や経済一般の基礎知識は社会に出る前に身につけておくべきだ。ただし、投資に夢中になるあまり、カネにカネを生ませること「しか」考えない世代が生まれやしないかと心配にもなる。日本にはまだモノ作りの精神が必要で、技術の伝承も欠かせない。そもそも、リスクのある投資先に余財を回せる若者など ほとんどいないだろう。

   「私とて、金が大切なことは十分わかっている」と 筆者はいう。「金で苦労したことがないとは言えないし、むしろその苦労が大半だった」と。

   広告や作詞を通して流行を仕掛け、自らも渦中で踊り、ギャンブル好きの無頼派で鳴らした伊集院さんも73歳。いまやご意見番の風格が漂い、説教が似合う年頃になった。彼に「弱み」があるとすれば、波乱万丈の末にではあるが、人気作家の地位を固めたことかもしれない。「余裕のある成功者に言われても...」と思う読者もいよう。

   それでもなお、大真面目にカネより品性だと直言できる書き手は、希少である。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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