「大人ピアノ」 大江千里さんが中高年に勧める鍵盤デビュー

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ああ上野駅...

   「そうはいっても...」と尻込みする読者も多かろう。ほかならぬ私も楽器とは縁遠く、小学校のハーモニカ、リコーダーのほかはギターを少しかじった程度。ピアノとなると敷居が高い。半面、知られた音楽家から「触れれば音が鳴る。弾いちゃいけない音などない」と背中を押されれば、その気になる人もいそうだ。

   大江さんが説く「大人ピアノ」の効用は、実用的なところではボケ防止や話題づくりだろうか。60代の私は、おのずと脳の活性化に興味をひかれる。あとは何か一曲、みんなが知っているバラードあたりをこっそり練習し、終わりまで弾けるようになることか。

   その暁には、飲みに行くのでもピアノがあるバーをさりげなく選ぶようになるかもしれない。よく目にする「街頭ピアノ」で華々しくデビューするのも悪くない。

   しかし大江さんが「強く勧めたい」というのは、そんな妄想を抱く前に、まずは鍵盤に触れてみることだ。リアルの鍵盤でなくても、タブレットなどにダウンロードした作曲アプリで十分だという。ネットで何でもできる時代はありがたい。コロナ禍で自宅に籠っていた時期にピアノを始めた人も多いという。

   習うより慣れよ...である。今さらプロになるわけでもなし、しょせん素人の気紛れだ。ヤマハ大人の音楽教室のHPによれば、入会者の7割が「全く初めての方」だという。

   JR上野駅に期間限定で置かれた「駅ピアノ」の様子をのぞいた。公園口の改札内。SNS用に弾く外国人観光客や子どものほか、腕に覚えのある人も少なくない。近くの東京芸大生が混じるのか、プロ並みの演奏も聴けた。

   足を止めて聴き入る人が20~30人。「聴く」と「弾く」の間に横たわる深い谷を思った。さて、勇気だけで飛び越えられるだろうか。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。
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