地続きの18歳 宮藤官九郎さんが娘に叫ぶ「分かってんのか?」

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「東京+独居」の衝撃

   私も地方出身で、やはり進学時の上京で親元を離れることになった。宮藤さんより14年早い1975年のこと。マクドナルドの日本初出店(銀座三越1階)から4年、セブンイレブンの1号店(江東区豊洲)が開業した翌年である。

   単独でも強敵の「東京」と「独居」が一緒に攻めてきた18歳の春。それは紛れもなくターニングポイント、というより「おれの人生」の起点だった。

   生まれた時からずっと東京で暮らしていれば、筆者が書くように人生は地続き、段差のないシームレス状態となる。「記憶は最初からカラフルで、ブルーレイ並みに鮮明だろう」との表現に思ったのは、新宿区で生まれ 中学から慶應義塾に進んだ泉麻人さんの「回顧もの」だ。多感な少年時代に「ナマ東京」を経験しないと、あれは書けない。

   半面、上京に伴う衝撃体験は地方出身者の特権である。泉さんにも「初の銀座」などを書いた作品はあるが、青春ど真ん中で飛び込むメガロポリスは格別である。

   宮藤さんは、それができない娘を気の毒に思っている風でもある。せめて独り暮らしだけでも経験してみたら? と水を向けてもあえなく拒否される。

   一連のやりとり、どこまでが事実で どこからが創作なのか判然としない。そこは売れっ子の脚本家、虚実ない混ぜの世界で真に迫っていく手法はお手の物だ。父親としては案外、なかなか離れようとしない娘にご満悦なのかもしれない。

   ネットやSNSの全盛で社会の均質化が進み、確かに出身地による文化格差のようなものは消えつつある。それが「いい時代」なのか、断言する自信はない。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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