北朝鮮ミサイル「厳重抗議」効果さっぱり 「北京の外交ルート」その実体 

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   北朝鮮がミサイルを打ち上げるたびに、日本政府は「厳重に抗議」している。しかし、さっぱり効果がない。「北京の外交ルート」を通じての抗議とされているが、具体的にはどんな方法で、どう抗議しているのか。

  • まさかファクス1枚送って終わり、ではないだろうが…(写真はイメージ)
    まさかファクス1枚送って終わり、ではないだろうが…(写真はイメージ)
  • まさかファクス1枚送って終わり、ではないだろうが…(写真はイメージ)

国会でも議員が質問

   朝日新聞は2019年10月8日、「北朝鮮へ抗議する唯一の手段 『北京大使館ルート』の謎」という記事を公開している。

   それによると、「北京の大使館ルート」とは、第三国である中国・北京にある日本大使館と北朝鮮大使館の間でのやりとりを指す。国交のある国であれば、日本にある相手国の大使館関係者を外務省に呼んだり、相手国政府と現地の日本大使館との間でやりとりしたりできる。だが、北朝鮮とは国交がなく、日本にも北朝鮮国内にも双方の大使館はないため、伝達手法は限られる。

   唯一の方法が、「北京の大使館ルート」というわけだが、実際にどんなやり取りをしているのか。

   立憲民主党の逢坂誠二議員が2018年4月、国会に「政府の北朝鮮への抗議ルートに関する質問主意書」を提出している。

   「どのような形で日本政府が北朝鮮に抗議を行っているかについては、国民は知り、その実効性を判断し、国政選挙などの際の投票判断の材料にする立場にある。政府の北朝鮮への抗議ルートについて確認したい」との趣旨で、過去の抗議が具体的にどういう形でおこなわれたのか、問いただしている。

   政府の回答は、「お尋ねについては、在中華人民共和国日本国大使館を通じて行ったが、これ以上の詳細については、今後の対応に支障を来すおそれがあることから、お答えを差し控えたい」と、にべもない。

「セレモニー的な感じ」だが「重い」

   政府間の抗議はよくある。日本政府が中国、韓国、北朝鮮などに抗議することもあれば、その逆もある。友好国同士でも、日本が米政府に抗議することもある。

   そうした政府間の抗議について、ニッポン放送は、2019年2月22日、「ニュースで聞かれる『厳重に抗議した』って、どう抗議するの?」というテーマで取り上げている。外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦氏が答えている。

「普通どうやるかというと、いろいろやり方がありますが、大臣が出てくるような話ではない場合もある。そのときは外務次官が、もしくは局長が、その国の東京にいる大使を呼びつけて、『厳重に抗議します』と言って、その後記者会見で対外的に発表します」
「『厳重に抗議します』と言われると普通、大使は『本国に持ち帰ります』『正確に伝えます』とか言うだけなので、その意味ではセレモニー的な感じはするけれども、これはやはり重いものです。場合によっては東京だけでなく、現地でも同じようなことをやって、申し入れて記録に残すということをします」

自民党内からも「なぜ言えない!」

   先の朝日新聞によると、北朝鮮のミサイル発射に対する政府の抗議ぶりは、自民党内にも生ぬるい、不透明、とのいら立ちがあるようだ。

   2019年10月2日、自民党本部で開かれた北朝鮮核実験・ミサイル問題対策本部の会合。「抗議は本当に北朝鮮に伝わっているのか!」。出席議員が外務省の幹部らに、北朝鮮への抗議の手段を問い詰めていた。

   この日朝、北朝鮮が潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)とみられる弾道ミサイルを発射し、日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下。弾道ミサイルの発射は国連安全保障理事会の決議違反でもあり、政府は「北京の大使館ルート」を通じて、北朝鮮に「厳重に抗議」をしたと表明していた。

   非公開の会合の出席者によると、外務省の滝崎成樹アジア大洋州局長が「どのような形で抗議したかは申し上げることができない」と答えると、「なぜ言えない!」と不満が噴出した。二階俊博・党幹事長も「しっかり答えないと、(茂木敏充・外務)大臣に来てもらわなきゃならんことになるかもしれないぞ」とすごんだが、滝崎氏は詳細を語らなかったという。

拉致問題では極秘交渉

   ミサイル発射では、日本と北朝鮮の間に国交がないことが、事態を複雑にしている。朝日新聞記事によると、実際のやりとりについて、外務省関係者は「北京の(日朝の大使館の)担当者同士が直接会って話したり、電話したり、ファクスを送ったりする」と語っている。ただ、どの手段を使うかはその時々によって違うと言い、判然としていないという。

   加えて、北朝鮮との間では日本人の拉致問題が未解決になっていることが、さらに事態を難しくしている。

   同記事は、ミサイル発射での「厳重な抗議」はあくまで事務的なルートであり、北朝鮮との外交交渉では、秘密裏の別のルートが使われていることを補足している。拉致問題の解決のため、日朝首脳会談実現に向けた両国の政府高官による水面下での交渉などだ。

   18年7月には、北朝鮮の朝鮮労働党統一戦線部の金聖恵統一戦略室長と日本の北村滋内閣情報官がベトナムで極秘接触をしているが、政府はこうした水面下の交渉ルートについては一切公表していない、と同記事は指摘している。

   「厳重抗議」という文言は、日本国内でも、よく使われている。例えばインターネットで「宮内庁+厳重抗議」と検索すると、宮内庁による週刊誌記事への抗議文がずらっと出てくる。逐一報道されないが、皇室関係の記事には再三抗議が行われていることを知ることができる。

   しかし、北朝鮮とのトラブルは、ちょっとレベルが違うようだ。日本人拉致問題の解決が見えないうえ、いつ日本の領海・領土に落下してくるかもしれないミサイル。日本政府にとって北朝鮮との交渉は、国会や自民党幹部にも明かせないほど秘密性が高く、取り扱いに神経を使うことを強いられる難題となっている。

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