メタバース(仮想空間)に、図書館のように整列された書籍を手に取って読める空間がある。2023年2月1日に公開された、「[JP] NDC Library」というワールド(VR上の空間)だ。無料で利用できるメタバースプラットフォーム「VRChat」から入れる。
配架されている図書1万6377冊は、著作権が切れた作品を収集するプロジェクト「青空文庫」で公開されている電子本をもとにしている。「NDC Library」制作者の「ねむり木」さんに取材した。
モノトーンの世界で読書にふける
「NDC Library」は、白やグレーをベースにしたモノトーン調のワールド。アクセス時にアバターが配置される初期位置は、真っ白な中庭のような場所だ。目の前にある階段を上がって建物の中に入るとすぐ、いくつもの本棚が目に入ってくる。
本棚の側面には「2 歴史」「3 社会科学」といった具合で、図書を種類分けする「日本十進分類法」(NDC)に基づいた分類記号や図書のカテゴリ名が振られている。
棚側面の下部には「28 伝記」「31政治」などと、より細かい分類が書かれている。本棚の中には、五十音順で並べられた著者名ごとに本が配架されている。
例えば芥川龍之介の小説が読みたければ、「9 文学」の棚のあるエリアに移動し、細かい分類として「91 日本文学」と側面に記載されている棚を探す。そして「あ行」の著者名の本が置かれている部分で、「芥川」を見つける。現実の図書館と同じように、本を探せる。
本の背表紙には、芥川の作品なら「913 あ」など、やはり現実の図書館のように分類記号や著者名の頭文字が振られたラベルが貼られている。
読みたい書籍を選び、本棚から取り出す。ページごとにテキストで内容がつづられており、VRコントローラーを使ってめくれる。本の上部をつかんでひっぱる動作をすれば、書籍サイズを大きく引き伸ばせる。テキストサイズが小さいと感じたときに便利だ。
建物の中には、より簡単に本を探せる検索機が設置されている。検索方法としては、まず「作品名」か「著者名」を選び、検索したい名称の頭文字のボタンを押す。左側の画面にヒットしたタイトルや著者の一覧が表示される。読みたい本の項目を押せば、機械の上に対象の書籍が出現する。
図書館の「体験」再現したかった
青空文庫の書籍をVRChat上で3Dモデルとして読めるようにするシステムや検索機能自体は、他のクリエイターが制作したものだ。多くのクリエイターが、イラストや3Dオブジェクトを販売するサイト「BOOTH」で、「青空文庫システム」という名前で出品している。BOOTH内の出品ショップは、「スズ製作所」という名義だ。
NDC Libraryで配架されている本も「青空文庫システム」を利用している。VRChat上ではほかにも、青空文庫システムを使って本が読めるワールドが公開されている。ただ、ねむり木さんによると、NDC Libraryには大きな違いがある。ワールド名にもある通り「NDC」での図書分類を適用している点だ。
「図書館が好き」でよく利用していると、ねむり木さん。「どの棚に何の分類の本があるかを見ながら、欲しい本を探して手に取る体験」を再現したいと考え、この空間を制作したのだという。ワールドのデザインや、本ごとに背表紙へラベルを割り振られ、分類ごとの棚に本が配架されるシステムは自身で作り上げた。
なおNDC Libraryはあくまで図書館のような体験ができるワールドとして作ったものであり、正確には「公共図書館ではない」とのこと。現実の公共図書館は書籍や資料、建物だけでなく、運営するスタッフがいて初めて成立するものだと、ねむり木さんは考えている。