つい しんみり
フードライターにもジャンルがあるが、『自炊力』(光文社新書)なる著書もある白央さんは、食べ歩きの評論家というより 暮らし密着の実践者といえる。
オレンジページは、季節のレシピが満載の料理雑誌。白央さんのコラムは隔号で掲載されてきた。雑誌が月二回発行なので、スタートから2年、計24回での終了だ。よりによって最終回は自炊ならぬ「他炊」の顛末を記すことになり、タイトルわきにある「作ったもの」欄も正直に「作ってもらったもの」に変えてある。
「自炊力」は独り暮らしのクオリティーを左右する。食材や調理法、購入先の選択肢が豊かになった今でも、それは変わらない。本作を読んで、二人暮らしでも、子どもがいてもいなくても、個々の自炊力は重要だと納得した。音楽のバンドでも、それぞれが複数の楽器をこなせれば何かの時に融通が利くし、創作の幅も広がるというものだ。
もうひとつ勉強になったのは、好物のレシピ化という作業である。得意料理ほど、目分量や勘に頼りがちになる。実は白央さん、小さじ何杯、カップ何㏄というのがどうも苦手らしい。その人が「レシピ化」を言うのだから有用と思われる。これまた音楽にたとえれば、どんなに素晴らしい楽曲も楽譜がなければ引き継げないし、残らない。「私の身に何かあったら、たまには作って思い出してほしい」...しんみりと共感してしまった。
本作はこう結ばれる。「さて本連載も最終回。憧れの『オレンジページ』でコラムを書けて嬉しかったなあ。2年間本当に、ありがとうございました」。
こちらこそ、自炊にもいろんな「奏法」があるものだと勉強になった。同じ料理好きとして、大いに楽しませてもらいました。
冨永 格