のろけも嫌味なく
夏井さんは、芸能人が「異能」を競う毎日放送のバラエティ番組「プレバト!!」で、出演者の俳句を講評、添削する先生として全国に知られる。昨年には、女性セブンの連載に加筆した『瓢箪から人生』がベストセラーにもなった。
文中には自作の二句が挿入されている。
〈雪虫やフツーという普通でない日〉
〈救急車の音や霙(みぞれ)は顔を打つ〉
筆者に倣って本作を五七五でまとめれば、〈急患の身にありがたや夫婦愛〉といったところか。ひとつ間違えば大ごとになりかねない状況である。エッセイは危機を脱するまでのドキュメントであり、同時に「おのろけ」とも読める。
しかしそれが読者を白けさせることはない。無事に退院したからこそ夏井さんはこれを書けたわけで、読むほうもある種の「ゆとり」をもって楽しめる。だから夫の優しさを強調しても不快にならないし、実際、筆者の身心は彼に救われたのだから。
正岡子規、高浜虚子らを生んだ「俳句王国」愛媛に生まれた夏井さん。半ば宿命のように思う人生の誓いは「俳句の種を蒔き続けること」だという。俳壇では異色の存在かもしれないが、その心意気やよし。健康に気をつけ、末永く弾けてもらいたい。
冨永 格