ありがたい普通 夏井いつきさんを入院先で救った夫の優しさ

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のろけも嫌味なく

   夏井さんは、芸能人が「異能」を競う毎日放送のバラエティ番組「プレバト!!」で、出演者の俳句を講評、添削する先生として全国に知られる。昨年には、女性セブンの連載に加筆した『瓢箪から人生』がベストセラーにもなった。

   文中には自作の二句が挿入されている。

〈雪虫やフツーという普通でない日〉
〈救急車の音や霙(みぞれ)は顔を打つ〉

   筆者に倣って本作を五七五でまとめれば、〈急患の身にありがたや夫婦愛〉といったところか。ひとつ間違えば大ごとになりかねない状況である。エッセイは危機を脱するまでのドキュメントであり、同時に「おのろけ」とも読める。

   しかしそれが読者を白けさせることはない。無事に退院したからこそ夏井さんはこれを書けたわけで、読むほうもある種の「ゆとり」をもって楽しめる。だから夫の優しさを強調しても不快にならないし、実際、筆者の身心は彼に救われたのだから。

   正岡子規、高浜虚子らを生んだ「俳句王国」愛媛に生まれた夏井さん。半ば宿命のように思う人生の誓いは「俳句の種を蒔き続けること」だという。俳壇では異色の存在かもしれないが、その心意気やよし。健康に気をつけ、末永く弾けてもらいたい。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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