「テレグラム」や「シグナル」という暗号通信が話題になっている。全国で多発した広域強盗事件では、これらが犯行グループで利用されていた、と報道されている。一般にはなじみがないが、オレオレ詐欺などの特殊詐欺や違法薬物売買などの犯罪では、以前からよく使われているという。
フィリピンから実行犯に指令
これらの暗号通信による犯罪については最近、新聞や週刊誌などで何度も報じられている。
文春オンラインは2020年11月15日、「進化した『半グレ』その犯罪の残忍な手口とは?暗号化アプリを活用、高齢者からセクシー女優まで標的」という記事を公開。暗号通信アプリで「闇バイト」を募集する手口が広がっていることを報告している。筆者はノンフィクション作家の尾島正洋氏。
「半グレグループなどに詳しい関係者によると、実行犯らとの連絡方法は匿名性の高い『シグナル』『テレグラム』というアプリが使われることが多い」
「最近は通信内容が暗号化されるために、記録をたどれないこともあり、どういった内容の指示がなされたか不明のままになる」
「さらに、指示役と実行役が顔を合わせることがないよう、指示役が実行役を遠隔誘導することが多いため、詐欺や強盗などの事件で実行犯を逮捕することとなっても、指示役や上部組織に突き上げ捜査を進める際に障壁となり、実態解明は困難な情況となっている」
まるで、狛江市などの事件を予見するかのような記事だ。今回の一連の広域強盗事件では、指示役がフィリピンからスマホを使って実行犯に指令を出していたと見られている
メッセージは消去される
TBSによると、「テレグラム」は匿名性が高く犯罪の温床とされる。シークレットチャットを使うと、サーバーを通さずにユーザー同士でやりとりできるという。送信されたメッセージや画像は過去にさかのぼって消すことができて、お互いのスマートフォンから消去される。
こうした暗号通信は薬物売買の世界でもよく使われているという。元関東信越厚生局麻薬取締部部長の瀬戸晴海氏が、22年7月24日のプレジデントオンラインで詳しく解説している。「普通の人は知らないが、薬物乱用者なら絶対に知っている」アプリがあり、拳銃、違法薬物、身分証など、あらゆるものが「ネット密売」で買えるという。
さらに、一般的な検索エンジンでは引っかからないネット空間「TorBrowser=トアブラウザ(Tor)」というのもある。「ダーク(闇の)ウェブ」と呼ばれ、多くの犯罪に悪用されているという。
政府の情報統制から逃れる
こうした秘密性の高いアプリや「ダークウェブ」は、犯罪だけに利用されているわけではない。
22年5月1日の日経新聞は、「暗号化メッセージアプリ、検閲懸念で利用急増 ロシア侵攻後、『テレグラム』『シグナル』競う」という記事を掲載している。
それによると、「テレグラム」はロシア出身の技術者が開発し、現在は同国外に拠点を移している企業が運営する。「シグナル」は米国発だ。
22年2月のロシアのウクライナへの軍事侵攻後、ロシアでは「テレグラム」のダウンロードが急増した。これは、政府の検閲を逃れようとする人達の利用が増えたためとみられている。
一方、ウクライナでは「シグナル」の利用が増えた。これらの暗号通信は、政府の情報統制が厳しい中国などでも普及が進んでいるという。
「ダークウェブ」の代表とされる「Tor」も、犯罪だけに使われているわけではない。『闇ウェブ』 (文春新書、2016年刊) によると、本国の人権抑圧などで、通常の方法では自由なやりとりできない活動家などもTorなどを使って情報交換、抵抗を続けている。「ウィキリークス」のジュリアン・アサンジなどもTorのネットワーク上にサイトを構築しているという。