「みかん箱」に見出した答え
西川バウムの浅見有二代表と、乃村工藝社のデザイナー・柳瀬弘典さんを取材した。
浅見代表も、JR東日本 東京新幹線運輸区社員が西川材ショールームを訪れ、共に近隣の山や製材所を視察した出来事を、「無垢材の良さを知ってもらうよい機会となり、非常に価値があった」と受け止めている。
浅見代表「山に生えている木を見て、触れる。それによって、素材がどう育ち、どうやって家具になっているか、『本物』とはどういうものか、納得してもらえたと思います」
それを受け、柳瀬さんは家具搬入時のエピソードを語った。
柳瀬さん「東京新幹線運輸区社員の皆さんは、立ち会うだけでなく、運搬や組み立てまで自分事として行っていましたよね。率先して汗をかいて、皆で作り上げました」
浅見代表「このように、できるだけ参加してもらうのがよいですよね。意外に重いとか、ちょっとザラザラしている、というのは木を持って運ぶとわかりますから」
木ではない素材の表面に木目がプリントされているだけ、あるいは、傷一つなく、きれいすぎる塗装が施されている家具が「昨今は、当たり前になっている」ことを、浅見代表は危惧している。本物の木がどういうものか知らないと、「ささくれが一つあるだけでびっくりして、クレームにつながる」ケースが予想できる。
浅見代表「経年劣化でささくれができても、木の知識があれば、気付いたときに少しやすりをかけて、解決できますね。香りがたちますし、気分転換や会話のきっかけにもなります」
柳瀬さん「今回だとコケリウムもそうでしたね。生き物なので世話が必要で、ある種手間がかかる存在でしたが、皆さん『自分たちでやります』と快く引き受けてくれました」
浅見代表は、伐採した木を柱材に加工し、組み合わせた「はしらベンチ」を、地場である飯能市をはじめ、埼玉県の公園や図書館、市役所幼稚園・保育園に置き、本物の木の色や香り、手触りを体感してもらう試みを行っている。JR東日本、乃村工藝社とのプロジェクトを通じ、「やってきたことは間違っていなかった」と実感できたそうだ。
浅見代表「国産材活用といっても、手法は色々あります。とにかく木材製品をたくさん作って売り、利益を得る......というアプローチでなくてよいのだと確認できました」
柳瀬さん「『オフィス×木質』デザインは、リラックスやコミュニケーション活性化など、ウェルビーイングな状態を作り出すことにつながるのだと手応えがありました。建築基準法に則りつつ、仕事をする際に提案に盛り込んでいきたいです」
最後に、浅見代表は箱を一つ取り出した。かなり年季が入った「みかん箱」だ。幅が不揃いの板を継ぎ合わせ、ビスで打っただけだが、しっかりと形を留めている。
浅見代表「木の個性を生かしつつ、無駄なく組み合わせて使っています。しかもずいぶん昔に作られたのに、長持ちしています。我々は、こういう物を提供するのがよいと思うんです」