名は体を表さず? 里見清一さんの苦言は町名から病名に飛んで

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国名や政党名は...

   里見さんによると、病名ばかりか病原体の呼称も変わる。3回変わって四つ目の名で呼ばれている細菌もあるそうだ。三つ目まではフォローしていた筆者も「やってられるか」と放り出したという。

   筆者が触れたチャーグ・ストラウス症候群は、病態を表さないからと「好酸球性...」に。漢字14個が連なる 長い戒名のような病名では医師も扱いづらいということで、現場ではEGPAなる略称が用いられる...結局、病態は表さないままである。

   作中には登場しないが、川崎病という疾患がある。全身の血管に炎症が起きる、乳幼児に多い原因不明の病気で、1967年に最初の症例を報告した川崎富作医師(小児科)の名を冠する。神奈川県川崎市とは何の関係もないのだが、病態が分かった今も発症のメカニズムが解明されておらず、言い換えようがないのかもしれない。

   病気それぞれに歴史があり、命名の仕方にも時代が反映されている。里見さんは無闇やたらに毒づいているわけではなく、字面をよくする、あるいは言葉を「小綺麗」にするための名称変更には意味がない、という主張である。

   他方、国名や政党名、宗教名など「大きなもの」には、建前や理想を安易に用いた結果、実情とかけ離れてしまった例が少なくない。「民主」という名の独裁、「自由」と称する干渉、「平和」を騙る悪徳...これらは「病態」に即した改名が急がれる。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。
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