多くのトップアスリートは五輪を目指している。ところが、「五輪を目指さない」と公言しているトップアスリートが話題になっている。陸上女子長距離界の第一人者、積水化学所属の新谷仁美選手(34)だ。
現役最速ランナー
新谷選手は女子1万メートル、ハーフマラソンの日本記録保持者。
2023年1月15日には、米国・ヒューストンで開かれた女子マラソンで、自己ベストを大幅に更新、2時間19分24秒で優勝した。野口みずきさんが持つ日本記録にあと12秒と迫る好記録だった。 日本の女子選手で、それまでに2時間19台を記録しているのは、野口選手、高橋尚子選手、渋井陽子選手の3人のみ。今回の新谷選手のタイムは、高橋、渋井選手の記録を上回り、日本歴代2位。現役選手では、2021年の東京五輪マラソンで8位に入賞した一山麻緒選手の2時間20分29秒を上回り、唯一人の19分台ランナーとなった。
それだけに、新谷選手には24年のパリ五輪での活躍が期待されることになったが、ヒューストンから帰国後の23日、記者会見し、パリ五輪について「今の時点では私の気持ちの中にありません」と話し、五輪出場を目指さない方針を明かした。
日本記録「あとは5000メートルとマラソン」
朝日新聞によると、新谷選手は、「五輪に出ること、日本代表になることがすべてではない。そこを通らなくても結果は出せる」とし、9月のベルリンマラソンで野口選手が持つ日本記録(2時間19分12秒)の更新を狙うことを強調した。
新谷選手は今回の会見で、「今まで五輪が正義だと思われていたが、『どれだけ五輪が国民の方に求められているのかな』と選手として感じた。出ないことが正義ではないが、私は五輪を目指さないということです」とも話した。
スポニチによると、新谷選手の今後の目標はマラソンと5000メートルで日本記録樹立。「四つの日本記録を持つことを目標にずっとやってきた。あとは5000メートルとマラソン。来年も同じようなコンディションか分からないので、今年はチャンスだと思って臨みたい。結果を残すというのは、私を支えてくれる人たちへの感謝の気持ちの一つ」と語った。
プロ意識が高い
新谷選手は高校時代から傑出した長距離ランナーとして知られた。岡山・興譲館高校時代は全国高校駅伝で、エース区間の1区を走って3年連続区間賞。2012年のロンドン五輪では1万メートル9位、13年のモスクワ世界陸上では1万メートル5位。日本長距離界のナンバーワンランナーとして活躍したが、14年に突然現役引退。その後、会社員生活を経て18年に再び陸上界に戻り、1万メートルやハーフマラソンで日本記録を樹立。ナンバーワンアスリートとして復活している。
なぜ新谷選手は五輪にこだわらないのか。日刊ゲンダイは、ある実業団の指導者の以下のような見方を伝えている。
「新谷はプロ意識が高く、4つの日本記録を更新することがスポンサーへの恩返しになると考えている。それはプロである自分の商品価値を高めることにもつながる。新谷なら5000メートルの記録(14分52秒84)更新は難しいことではないし、今回の走りを見ればベルリンでの記録破りも十分にある。一方の五輪マラソンは、ペースメーカーはつかず、有力勢のペースの上げ下げによる消耗戦で時計は度外視。新谷の持ち味で勝負になるレースではありませんから」
パリ五輪の選考会、マラソングランドチャンピオンシップのレースは今年10月15日、東京で開催される。9月にベルリンマラソンに出場する新谷選手は、日程的にもこのレースに出るのは難しいとみられている。