ばえる名前 久野映さんは新語大賞と向き合う宿命にあった

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ウケとサービス精神

   「校閲至極」は毎日新聞の校閲陣が交代で執筆し、本作が第220回。校閲者としての目のつけどころが面白くて、楽しみにしている連載のひとつである。

   入社間もなく4年となる久野さんは、インターネットの世に生まれ、SNSと共に育ってきた世代である。学生時代は違和感なく、いや 名前との関わりを気にしながらも「ばえる」を日常的に使ってきたのだろう。

   私もSNSに上げる写真では「映え」を気にするほうだ。というより、ほかは考えていないかもしれない。あえて動機を分析すれば、ウケ狙いとサービス精神だろうか。

   風景、植物、料理、スイーツ、クルマ...どれもニュース写真はないから、慌てて撮ったり発信したりする必要はない。ならば見映えにこだわり、なるべく印象的な画像を共有しようじゃないか、というのが正直な心情である。

   SNS時代の そんな空気を象徴する「ばえる」について、久野さんは「濁った読み方をして俗なニュアンスを含ませた」「気軽にみんなにシェアしたい美しさ」といった表現でアプローチを試みる。濁点に注目したのは、さすが言葉のスペシャリストである。

   従来読みの「はえる」は、広辞苑によると〈光を映して美しく輝く/引き立つ/立派に見える〉といった意味合いだ。これに濁点がつくだけで、もう一段 美しさを「盛る」印象になる。後ろめたいほどではないが、ちょいと照れ臭い...若干の自虐をにじませて、久野さんのいう「俗なニュアンス」が醸し出されるのだ。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。
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