インフルエンサー 綿矢りささんはクラスの人気女子を思い出す

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口コミの威力

   その言動が社会に大きな影響を及ぼすインフルエンサー(influencer)。そのイメージは時代とともに変遷してきた。インターネット以前であれば、大新聞のコラムニストやテレビの人気者も一定の力を持っていたことだろう。

   SNSの時代となり、フォロワーの多さが影響力の尺度になった。インフルエンサーの好みが多数の購買行動を左右することに目をつけ、企業も宣伝に積極利用するようになった。SNS全盛のいま「口コミ」の効力は馬鹿にできないのだ。

   30年近く前の小学校では、圧倒的な力を持つのは文字通りの口伝えだった。もともと人気のあるクラスのリーダーがプクプクシールを気に入ったとたん、それが学級の標準装備のようになる。最初にどの子が持ち込んだか、なんてことには誰も関心がない。

   日ごろ目立たない存在だった綿矢さんにすれば、落胆しながらも「きっかけは私だもん」と密かに誇るくらいが 身の丈に合っていたのかもしれない。

   シール集めに夢中になった少女は10年後、最年少で芥川賞を受賞し、時の人になる。当時のクラス仲間で、いま一番の「インフルエンサー」は間違いなく綿矢さんだろう。

   鈴城さんも熱心な読者に違いない。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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