結婚は「ハードルが高い」
作中には、神野さんはじめ、東京や大阪からやってきた女性たちも登場する。慣れない農業体験に苦労しながらもいきいきと取り組んだり、さえぎるものがない朝焼け、日の入りに目を輝かせたりする、飾らない姿が印象的だ。撮影時の思い出を、神野さんは「ただただ、北海道の自然や食べ物を満喫しました。楽しくて、おいしかった」と振り返る。
神野さん「前もって何かやっておかなくていいの?準備するものないの? って感じでした。何をするのかわからない状態で、現地へ行きましたね」
松本監督「彼女たちの、素の部分を撮りたかったので(笑) みんなマジメなんですよね」
松本監督が今作で女性をクローズアップした背景には、「若い女性の自殺者増」がある。
東京大学などのチームが、20年3月~22年7月の期間にコロナ危機の影響で自殺者がどのくらい増加したかを試算したデータ「コロナ禍における超過自殺(22年9月発表)」を見てみよう。これによると、超過自殺は約8500人(約4000人~約1万人)で、内訳は20代が最多(女性:約1100人、20代:男性約750人)。子どもの自殺も増えており、20歳未満女性が約300人、20歳未満男性が約100人とある。
松本監督は、若い世代、特に女性を自殺に追い込んでいる社会のあり方に危機感を覚えた。そこで、女性たちに「結婚、妊娠、出産」への本音や、人生観について語ってもらい、映画を通じて「色々な選択肢があっていいでしょう」と訴えたかったという。
神野さんも、作中で結婚への複雑な思いを吐露した一人。取材でも「結婚はハードルが高い」と、胸中を明かした。
神野さん「きちんとしていないといけない、というか。自分のことも、周りのこともちゃんとやらなきゃいけないって思うと......」
結婚は、人生を良くも悪くも大きく変える。神野さんは出来上がった映画を観て、何が自分にとっての「幸せ」なのだろうと改めて考えたという。
神野さん「女優として何か成し遂げたら幸せなのか? 今はそうじゃない気がします。家族とただ一緒にいる何気ない時間が、かけがえないなと。あとは農業をやっている時ですね」
かつて「トップキャバ嬢」だった神野さん。コロナ禍を期に生き方を変え、映像づくりに携わったり、神奈川県にある畑で野菜を育てたりしている。「今は野菜が高いので......自分の周りに配って回れるくらいは、頑張って作りたい」そうだ。
松本監督「今は、自ら学ぼうと思えば、何でもできる時代ですよね。やるかやらないか、言い訳するか否か、です。私も2017年に、50代で映画監督になったばかりなんですよ」
不要な情報や思い込みを捨て、可能性を閉ざしてしまわなければ、選択肢はいくらでもある。新しいことを始めたい、環境を変えたいと思い立った時、最後に必要なのは「自分から一歩踏み出す勇気」と松本監督。
「-25℃ simple life」は、迷いや葛藤を抱えながら生きる「普通の人々」の素顔が見られる作品だ。共感したり、新しい視点や価値観にハッとしたりするうち、一歩を踏み出したくなるかもしれない。