【2023年注目のテーマ:クリエイター】
クリエイター業界は、コロナ禍で「仕事ゼロ」に追いやられる人が少なくなかった。ウィズコロナが浸透した昨今も、良質なコンテンツを作っていれば生き残れるとは限らない。2023年は、10月スタート予定の「インボイス制度」など、業界に大きな影響を与える出来事も控えている。
来たる「ポストコロナ時代」、作り手はどんなアイデアで活路を見いだすのか。映像制作会社オフィスクレッシェンド(東京都港区)取締役で、コンテンツプランナー・プロデューサーのマツモトジュンイチ(松本淳一)さんを取材した。エンタメプロジェクト「SUPER SAPIENSS」の担い手の一人だ。(聞き手はJ-CASTトレンド編集部・藤原綾香)
「分散」と「分断」は違う
2020年当初「コロナは、数か月でおさまるだろうと考えていた」、マツモトさん。その数か月後には仕事がなくなり、何もかもが止まる経験をした。
さらに、出社前提の働き方が一挙に変わり、「会社や現場に集わないと、個人では仕事が進められない」状況から、「オンラインツールの発展により、リモート勤務が可能になり、個人でもできることが増えた」。例えば、複数人で集まれないのを逆手に取り、いち早くリモートドラマを制作した知り合いがいると語る。また在宅時間増に伴い、エンタメを個人で楽しむ方法が多様化。つまり「個人に向けたエンタメ作りも求められるようになる」と言う。
マツモトさんは2023年が「ポストコロナの年」になるとしても、変化した働き方や価値観、生活様式の全てが、コロナ禍前の状態に戻るとは思っていない。そのため制作者・視聴者ともに「個人」にスポットが当たる時代が来ている、とみる。
「これからは個人があってこそ。イコール『社会の中の個人』が大切。個人あっての社会、社会あっての個人。ということでWeb3.0コンテンツも増えていくと思います」
「Web3.0」とは、暗号資産に用いられる「ブロックチェーン」などの分散型プラットフォームを基盤とし、ユーザー同士が情報やサービスを管理・運用する考え方だ。サービス提供側の企業がデータ管理する「Web2.0」に対し、非中央集権的な仕組みといえる。
ただ、マツモトさんは、人と人とが分断されたり、「一人で何でもできるから、自分だけがよければいい」と考える人が増えたりする事態を望んでいない。むしろ、少人数ではなく、色々な人々とつながりを持ちながら、映像やエンタメづくりを行っていきたいという。そこで目下注力しているのが、「SUPER SAPIENSS(スーパーサピエンス=超人類)」、略称「スパサピ」プロジェクトだ。
映画制作現場、多くが年収300万未満
スパサピとは、堤幸彦監督、本広克行監督、佐藤祐市監督らが発起人の、エンタメDAO(管理者を持たず、メンバーが主体的に共同所有・管理する分散型自律組織)。三人の映画監督と、映画プロデューサーの森谷雄氏が共同で制作指揮をとり、サポーターと一丸となって「原作づくりから映像化および配給(配信)に関する全プロセスの一気通貫」に挑んでいる。
ブロックチェーン技術を利用したクラウドファンディングサービス「FiNANCiE」の、「スパサピプロジェクト」をフォローし、トークン(暗号資産の呼称)を購入するとサポーターになれる。サポーターはコンテンツ制作過程を見守るだけではない。例えばコミュニティで実施される「トークン投票」を通じ、作品のキモとなるシナリオ設定やプロモーション方法に関する決定に関わるなどして、制作陣と一つの作品を作り上げられる。
トークンは、需要増に伴ってマーケットでの価値が上がる。クリエイターは、権利と金銭的リターンを得られる。資金調達とファン集めが同時に叶う仕組みだ。コミュニティには既に3000人のサポーターがおり、制作陣を支えている。
マツモトさんは、「クリエイターにとって一番の問題は、やはり『お金』だと思っている」と危機感をにじませる。決まった予算の中で赤が出ないように作るのが常なので、予算は比較的コントロールできるものの、収入はすぐさま上げるのが難しい。それが、業界を支える人材減を招く。映像制作や技術職を志す人が減り、IT業界へ流れている実感があるそうだ。
「日本映画業界で働く人の6割以上が年収300万未満だとされていると、是枝裕和監督たちが声を上げていましたね。朝から晩まで働いて、それなのにギャラが少ないイメージを突破したい」
マツモトさんは現在、コミュニティ運営や、ステッカーやパーカーといったグッズ作りに奔走しており、さらに今後は「クリエイターズアカデミー」設立を目指している。クリエイター志望者に学びとつながりの場を提供し、映像制作現場へ送り出して、業界全体の底上げを図る目的がある。
マツモトさんは、ポストコロナ到来に際して「できるだけコロナ前と同じように他者と接していきたい」と考える。同時に、バーチャルやリモートといったフィジカル接触が無い関係もより強く、濃くしたいという。「スーパーサピエンス」になぞらえて、理由をこう述べる。
「ホモ・サピエンスは他者とのつながりを大切にし、社会性を持ち得たからこそ、他の種を出し抜き、勝ち残ってきたわけですから」