【2023年注目のテーマ:推し活】
「推し活」は、自分が熱心に応援するアニメやアイドルなどを対象にしたファン活動を指す。具体的には、コンテンツの視聴からグッズ購入やライブ参加、SNSでの応援と多岐にわたる。「2021ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされ、注目度は高い。
「K-POP」も、推し活の対象ジャンルのひとつだ。コロナ禍の世の中から、2022年は海外渡航が緩和され、K-POPの母国・韓国にも観光で行けるようになった。2023年の「推し活事情」はどうなるのか。K-POPに関する記事執筆や、『アイドルについて葛藤しながら考えてみた ジェンダー/パーソナリティ/〈推し〉』(青弓社)に寄稿しているDJ泡沫さんにインタビューした。
無料コンテンツが豊富
――まず、K-POPの推し活の特徴を教えてください。
DJ泡沫 お金をかけなくても「推し活」できるのが、K-POPアイドルだと思います。音楽そのものやパフォーマンス映像、字幕付きのバラエティー番組は無料で楽しめる場合が多い。アーティスト側はこれらを宣伝材料と位置づけてお金をかけて制作していますが、逆にこれで稼ごうとは考えていないと思います。おかげでファンは、無料でのコンテンツ視聴やファン投票への参加など(後述)を通して「推し活」ができます。
――日本で活躍するアイドルの場合、コンテンツの多くを無料で公開するのはなかなか見かけませんね。
DJ泡沫 だから、日本のアイドルファンとK-POPファンのメンタリティーも違ったりしますね。特に有料の現場自体が少ない海外の場合は、無意識に「タダで映像などのコンテンツやライブ動画を見られるのは当たり前」という考え方のファンもいるようです。冗談も含まれているでしょうが、DVDなどの有料コンテンツに対して「ファンからお金を取る」というような表現をするファンもいます。
――メンタリティーの違いで言うと、撮影行為が禁止されているライブ会場での映像や写真に対する価値観の違い(流出しないこと、撮影をしないこと)が、国内外でかなり差があると感じます。
DJ泡沫 海外では、ライブ映像が流出しないことに対して「シェア精神がない」というような表現をする人もいますね。 「日本特有かも」と感じたのが、ライブの感想などを絵や文でまとめた「イラレポ」です。
――「イラストレポート」、ジャニーズファンや映画ファンでよく見られる気がします。
DJ泡沫 日本だとジャンルを問わず、現場の熱量やファンサービス、感想をまとめるためにこの手法を使う人をよく見かけます。この「自分のフィルターを通して見えた風景を、創作活動の一環として表現する文化」は、他国のK-POPファンの間だとそれほど見かけませんね。現場によっては撮影OKの場合もありますが、ほとんどがコンサートの隠し撮り映像が出回るのが当然という環境があり、「直接見た方が早い」と考える人が多いのか、ツイート程度はありますがいわゆる「レポをまとめてシェアする」というのはあまりないようです。この違いも面白いなと思います。
「チャート1位に」とCD購入
――コロナ禍で変わったK-POPの推し活スタイル・お金のかけ方はありますか。
DJ泡沫 コンサートでも「メンバーに会いに行く」意識のファンは、コンサートやグッズに分散されていたお金を「ヨントン」(韓国語「ヨンサントンファ=映像通話」の略。映像通話を使ったサイン会、CD購入で抽選制の権利が当たる)等に使うようになったかもしれません。コンサートには行きたいがメンバーと直接話したいという欲求は強くない人もいるでしょう。そういう人は、使う金額は減ったかもしれませんね。
――ヨントンの登場で、CDセールス枚数が大きく伸びました。韓国の公式音楽チャート「Gaonチャート」が2021年1月12日に発表した、「年間アルバムチャートレビュー」によると、CD、レコード、カセットなど「フィジカルアルバム」の販売数は、コロナ前の2019年が約2500万枚だったのに対して、20年は約4170万枚、21年は約5700万枚でした。 一方、ジャニーズのタレントは、握手会特典などがなくても「ミリオン」を達成してきた歴史があります。
DJ泡沫 ジャニーズの場合、時折イベントはありますしバージョン違いやCDオンリーの楽曲が多いのもありますが、「同じ事務所の他のグループも1位を取ってきたから、私たちも『推し』に1位を取らせないと示しがつかない」というファンの考え方が、CD購入という行動につながることもあるようですね。K-POPでも「チャートを上にあげるために共同購入しましょう」という推し活はあります。主に中国や韓国のファンに多いですが、日本のファンは「チャートのため」という目的での複数購入はそれほどでもない感じがします。
――K-POPファンの間ではCD購入以外にも、韓国語で「スミン(ストリーミングの略)」と呼ばれる、ストリーミングやYouTubeのミュージックビデオ(MV)の空回し・連続再生で再生回数を増やす行為や、SNS投票がありますね。
DJ泡沫 全ての根源は「推しのため」でしょうけど、現状のジャニーズだとおそらく、ファンにとってはCD購入くらいしか手段がないのかも。システムや環境によって、応援方法の「アウトプット」が違うだけでしょう。実際、日本のボーイズグループ「BE:FIRST」や、ジャニーズでも音楽ストリーミング解禁している「Travis Japan」などでは、「ストリーミングしましょう」と呼びかけるファンアカウントがありますし、公式でもイベントなどでそれを促したりしています。
2023年の「推し活」どうなる
――2022年は、それまでのコロナによる「全面自粛」が徐々に緩和され、日本でもK-POPグループのコンサート活動が増えてきました。この影響はありますか。
DJ泡沫 円安の影響もあり、チケットの値段が上がりましたね。コロナ前はギリギリ1万円が多かったですが、今は全体的に数千円ほど上がっていると思います。それでも韓国を含む海外から日本での公演を見に来るファンは増えるでしょうね。
おそらく1番大きな問題は、会場のバリエーションや、数の多い日本でもコンサート会場の確保が難しいケースが増えている点。結果、予想される集客数より小さい会場しか押さえられなかったり、あまり交通の便がいいとは言えない会場になったりして、結果的に人気公演の場合は更にチケットが取りづらい状況かもしれません。
――コロナ禍で始まったライブ配信型の「オンラインコンサート」で、コンサートを生配信するグループも見るようになりました。
DJ泡沫 会場やチケットの問題に伴って、「コンサートが見られるなら現場でなくてもいい」というファン層も出てきていると思います。ライブ配信だけではなく映画館でのライブ・ビューイングもありますし。会場に行かずともライブ鑑賞できる選択肢が増えたので、いわゆる「お茶の間」層が広がっていく可能性はありますね。
――最後に、2023年の「推し活」で変化しそうなことはありますか。
DJ泡沫 日本ではK-POP自体は「サブカルチャー」として定着しているので、大きく何かが変化するイメージはありません。ライブの見方に関しては、配信でも構わないという在宅派か、世界中で行われる全部の公演に通いたいと考えるような、お金も時間もある熱心なファンの増加といった両極化は起きるかもしれませんね。