メタバースがリアルとつながる近未来 イベントを2つの世界で「同期」し楽しむ

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【2023年注目のテーマ:メタバース】

2023年がスタートした。J-CASTトレンドは年初にあたり、今年注目のテーマを軸に「withコロナ」の世の中がどう動いていくか、各界で活躍する識者のインタビューを通して考えていく。

   「コロナ禍でVR(仮想現実)にはまった」。新型コロナウイルス感染拡大で気軽に外出が出来なくなったのをきっかけに、VR機材を自宅に導入し、「メタバース」(仮想空間)内で他人と交流し遊ぶ。こうした人が出てきた。

   人と直接会えなくてもアバターを使い、他のユーザーと関われるメタバース。近い将来、現実とメタバースをつなげたり、一体化させたりする動きが活発になるかもしれない。(聞き手はJ-CASTトレンド編集部・田村今人)

  • メタバースとリアルが次元の壁を超えてつながっていくのか (写真はイメージ)
    メタバースとリアルが次元の壁を超えてつながっていくのか (写真はイメージ)
  • unlinkのイメージ (HIKKYの発表資料から)
    unlinkのイメージ (HIKKYの発表資料から)
  • VR「阿佐ヶ谷DRFIT」内で取材に答える日聖さん
    VR「阿佐ヶ谷DRFIT」内で取材に答える日聖さん
  • 現実にあるミュージックバーの内装を再現
    現実にあるミュージックバーの内装を再現
  • 「#現実同期」のフライヤー(告知用紙) 現実のDJとバーチャルDJ、両方が出演する
    「#現実同期」のフライヤー(告知用紙) 現実のDJとバーチャルDJ、両方が出演する
  • メタバースとリアルが次元の壁を超えてつながっていくのか (写真はイメージ)
  • unlinkのイメージ (HIKKYの発表資料から)
  • VR「阿佐ヶ谷DRFIT」内で取材に答える日聖さん
  • 現実にあるミュージックバーの内装を再現
  • 「#現実同期」のフライヤー(告知用紙) 現実のDJとバーチャルDJ、両方が出演する

コロナ禍で「VRChat」は同接急増

   VRメディア「Mogura VR」2022年12月15日付記事によると、有力メタバースプラットフォーム「VRChat」は、2019年後半までの同時接続ユーザー数は7500~8500人ほどだった。しかしコロナ禍で利用者数が急増し、2022年1月1日には同時接続数が過去最大の約4万2000人に到達したこともあったという。

   こうした中、リアル(現実)とメタバースの2つの世界をリンクさせる動きが、企業から生まれている。

   参加者数100万人を超える世界最大のVRイベント「バーチャルマーケット」。運営会社のHIKKY(東京都渋谷区)は22年11月28日、「unlink」というサービスを発表した。リアルとVRの境界線を越えたコミュニケーションを可能にするとの触れ込みだ。

   第1弾はソニーと連携し、「mocopi」という機器を用いたサービスを告知。mocopiは手足に装着し、着用者の動きを検知できるデバイスだ。unlinkではこれとスマートフォン(スマホ)を使い、誰でも手軽に体の動きをアバターで表現できるようにするという。

   HIKKYのCEO(最高経営責任者)・船越靖氏はメタバースの今後について、「リアルとバーチャルとが、より具体的に連動していく時代へと変わっていく」とコメント。同氏は11月28日の記者会見で、2023年夏に「バーチャルマーケット」と「リアルバーチャルマーケット」の同時開催を行うと語った。大まかな趣旨としては現実の東京・秋葉原を舞台に、家電量販店の店員がunlinkを利用。現実とバーチャル両空間での接客を可能にするという。「これからは、僕らがリアルで何かをしていたら、メタバース空間上の人たちがこっち(リアル)にきます」と船越氏は会見で述べている。

現実とVRで音楽イベント

   リアルとメタバースの「同期」は、個人レベルでも出ている。

   バーやクラブ内の音楽イベントで選曲や楽曲再生し、会場を盛り上げるDJ(ディスクジョッキー)。メタバース上の音楽イベントでは、バーチャルDJと呼ばれるユーザーがパフォーマンスをする例がある。

   こうしたVR上の空間と、現実の空間をつなげる「#現実同期」という音楽イベントが存在する。実在するミュージックバー「阿佐ヶ谷DRIFT」(東京都杉並区)と、同店をVRChat上で再現した「VR版阿佐ヶ谷DRIFT」が会場となる。

   VR阿佐ヶ谷DRIFTは、「#現実同期」を主催する、DJやVRワールドクリエイターとして活動している日聖翼さんが制作した。

   「#現実同期」が始まると、現実の阿佐ヶ谷DRIFT店内の壁には、プロジェクターでVR阿佐ヶ谷DRIFTの映像が投影される。現実の来場客は、VRChat上で阿佐ヶ谷DRIFTに訪問しているアバターの姿を、その映像により視認できるのだ。逆に、VR阿佐ヶ谷DRIFT内の壁には現実の店の空間が映し出される。アバターとして訪問している客は、現実の来店客の様子がわかる。

   店内でDJがパフォーマンスを行うと、流した曲が現実・VR双方の会場に流れる。その出番が終わると、今度はバーチャルDJの出番だ。VR空間から発信した音楽が、現実・VR両方の阿佐ヶ谷DRIFTに響き渡る。両空間の人間やアバターは、同じ音楽を聴きながら、まるでお互いが同じ空間にいるかのようにイベントを楽しめる。

バーチャル音楽イベント特有の文化

   もともとDJとして音楽イベントに参加してきた日聖さん。コロナ禍をきっかけに、知り合いのDJがVR上でも活動するようになったと聞き、自身でもバーチャルDJを始めた。

   VR上のみでDJ活動するユーザーのレベルの高さに感心したと、日聖さんは話す。また、世界中のあらゆる場所からアクセスでき、DJへの賞賛の意をこめて空中にハートマーク型のオブジェクトを散らすといった独特の感情表現が可能なVRの音楽イベントには、現実とは異なる文化があると感じたという。

「バーチャルのカルチャー(文化)を現実に引きこみ、逆に現実の人にはバーチャルのカルチャーを知ってもらう。相互作用を引き起こせないかなと考えました」

   阿佐ヶ谷DRIFTの店長と交流するうちに、「何か店でイベントを実施してみないか」と提案され、「#現実同期」の実施に至った。日聖さんによると、22年7月から11月にかけ、計3回実施した。

企業にとってはマネタイズ課題

   バーチャルとリアルの文化を共有させるイベントとして「手ごたえはあります」と日聖さん。現実の参加者がVRの世界に興味を持つケース、逆にVRから「#現実同期」に入った人が、今度は阿佐ヶ谷DRIFTの店に訪れるケースもあった。

   コロナ禍が沈静化していけば、このように個人がメタバースとリアルをつなげて楽しむ事例は「増えると思います」。

   VR上で知り合った音楽仲間から、京都市のクラブ「Club METRO」で、リアルとバーチャルで同時開催されている音楽イベント「シュッとしとるヤツ」について耳にした。2021年12月と2022年5月、11月にそれぞれ実施。「#現実同期」と同じく、現実の店内をVRChat上に再現し、現実・仮想空間をまたいで行われる。近ごろは「シュッとしとるヤツ」以外にも、関西地方のメタバースユーザーが仲間内で普段よく行くバーをVR上に再現し、現実と同期させて遊ぶ例を聞いたことがあるという。

   ただ日聖さんは、リアルとメタバースをつなげる企画を行う場合、どのように利益を生み出すか課題があるのではと指摘した。「具体的な費用対効果を企業や自治体が簡単にイメージできるコンテンツは、まだまだ少ないのではないかと思います」。

   まずは個人のクリエイターが、実験的にVRとリアルをつなげるコンテンツに取り組み、そうした事例を参考にした企業も参入を始める流れがいつか生まれればいいと、日聖さんは語った。

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