【作リエイターズアトリエ(通称「作リエ」)】
テレビアニメ「ポプテピピック」のゲームパートを描き、映像制作やイベント主催など、フリーランスでマルチに活躍する山下諒さん。隔週水曜夜、各分野で活躍中のゲストクリエイターや美大生を招いて、「創作」をテーマに、ツイッターの「スペース」や「オンラインセミナー」で語らう企画が「作リエ」だ。
連載では、スペースで出た話題から、エッセンスを抽出してお届けする。未来のゲストは、今この記事を読んでいるあなたかも?
第12回のゲストは、WEBTOON制作スタジオ「Studio No.9」の漫画編集者・遠藤さん。テーマは「国産「WEBTOON」編集者に聞く 漫画を『分業で作る』魅力」だ。スペースアーカイブはこちらから。
背景と着色担当にも印税払う
WEBTOONとは、スマートフォンで読むのに最適化されたフルカラーの漫画で、遠藤さん曰く「絵巻物を縦に長くしたイメージ」。韓国・中国ではメジャーだが、国内ではここ1年で盛り上がりを見せ始めた、新しい表現方法だ。ヨコ開き漫画だと視線誘導が難しく、海外の人にはどの順序で読むべきかわかりづらいが、上下にスクロールする動きは全世界共通であるため、グローバル展開しやすい強みがある。
「Studio No.9」が手掛ける現代バトルファンタジー「神血の救世主」は、LINEマンガで読める。ランキング「ファンタジー・SF」カテゴリにおいて、男性向け1位に輝いた実績がある。
山下さん「WEBTOONの制作過程を教えてください」
遠藤さん「あくまで僕らのスタジオの場合ですが、分業しています。制作の全工程メンバーに、出来高払いで印税分配しているんですよ」
細分化すると以下の通り。分業ではあるが、チーム感をもって作品を手がけている。
1.原作(プロット)
2.ネーム制作
3.線画(キャラクターデザイン)
4.背景
5.着色 ※下塗りと仕上げで、さらに分かれるケースも
山下さん「必ず分業しないといけないのでしょうか?」
遠藤さん「いえ、1人でも描けるといえば描けます。ただ、WEBTOONはフルカラーがスタンダードなので、一定ペースで高クオリティな作品を出すなら、分業になるのかなと」
制作に携わる人が増えれば、進行管理がカギを握る。遠藤さんの役割だ。
遠藤さん「やりとりするデータの仕様が守られているか、指定が正しく入っているかなどをチェックしています。伝わらない伝言ゲームみたいにならないように」
山下さん「アニメの制作進行をやっている友人がいるんですが、話をお聞きして、やっていることがほぼ一緒だと感じました!」
重要な仕事は他にも。「神血の救世主」は、LINEマンガで「有料でまとめ買い」するか、一話単位で「基本無料」で読める。毎週追加される最新話は、更新された時点では有料だが、一定期間待てば無料になるからだ。そのため、アプリ内でいかに課金をしてもらうか、プロデューサー視点で工夫を凝らす必要があるという。ユーザーがまとめ買いしたくなる、あるいは常に最新話を読みたくなる物語が求められる。
「ホラー」との相性抜群か
これまで数百のWEBTOONを読んできた遠藤さんに、おすすめを聞いた。「神血の救世主」に加え、以下があるという。
1.俺だけレベルアップな件
2.俺が育てたS級たち
3.バスタード
1と2は、韓国で盤石な地位を確立している人気ジャンル「ファンタジーバトルもの」で、主人公が圧倒的な力で敵を蹴散らす爽快さを楽しめる。
対して、遠藤さんが「個人的にとても好き」な3は、ミステリー、サスペンス、ホラー系。すると、「WEBTOONって、ホラーとの相性が良いよなって思っていたんです!」と山下さん。その根拠は、特有の「コマ間」にある。見開き漫画と違い、WEBTOONは「ページ数と、めくり」がないため、コマとコマの間の余白(幅)を調整して、流れやテンポを作れるのだ。
山下さん「ヨコ開きのホラー漫画は、ページをめくるとコワいものが出てくると予想できます。でもWEBTOONは余白調整が自在なので、例えば長めのスクロールで読者をドキドキさせられますね」
遠藤さんも、WEBTOON×ホラーに可能性を感じている。今は各コミックアプリのランキング上位を韓国作品が占め、前述した「ファンタジーバトルもの」や「恋愛」系が目立つが、今後「国産のフラッグシップが生まれると、市場が変わってくるのでは」。人気作品の流行を通じて「WEBTOONという表現方法」がメジャーになれば、描き手が増え、ホラーをはじめとする多様なジャンルが花開いていく、とみる。
「勝つ」ためのクリエイティブを
最後に、作リエ恒例の質問。遠藤さんが「クリエイティブをする上で、柱にしていることは」。
遠藤さん「『勝つ!』です。ランキング1位を獲るとか、目に見える成果を出すこと。関わってくれた人に還元していかねばと」
クリエイターは、勝敗を決める戦いをしているわけではない。だからこそ、「編集に立っている人間が『勝つ』ことを考えなければならない」。
スペース終了後、山下さんは「一緒に作っていくパートナーだとしたら、これほど力強いことはない」と振り返った。編集者をゲストに招いたのは今回が初だったため、気付きや刺激を多く得られたという。
山下さん「WEBTOON独特の空白・間の話は、昔のウェブサイト作りを思わせるような独特の文化で、強い興味を持ちました」
遠藤さん「制作に関する知見を、オープンな場所で話す機会があまりなかったので、貴重な経験となりました!網羅的に質問いただけたことで、改めて考えを整理できました」
第13回作リエは、2023年1月18日実施予定。