全治X年の災い
英国のコロナ禍。累計感染数が2400万人台(日本は2800万人台)、死者は日本の5万人台に対し21万人を超す。人口が日本の半分だから相当な猛威で、とりわけ死者が多い。経済に水を差す規制は緩和されたが、引いては返す「波」への警戒は怠れない。
ブレイディさんは「われわれ英国に生きる者は、コロナ禍はもう終ったものと思っているが、医療従事者にとっては今も進行中の事実なのだ」と書いた。
英国だけではない。野戦病院を思わせる現場映像がメディアを通じて拡散され、医師や看護師はもちろん、エネルギー供給、運輸、治安などに携わるエッセンシャルワーカー(それなしには社会が回らない仕事)への感謝と慰労の声が世界中にあふれた。
ブレイディさんは、夫の入院話や友人看護師の体験を通じて、コロナという災いの不条理を描いている。タブレット端末を舞台回しのように使いながら、画面に映し出される悲喜こもごもの人間模様を綴る。
冒頭の「割れたiPad」が末尾に再登場するのは、定型ともいえる仕掛け。ただ著者が巧いのは、最初のそれが読者に「不穏」を予感させる小道具なのに対し、結語のほうは「希望」のモチーフとして用いていること。読後感はこれで 俄然明るくなる。
世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は12月14日の会見で、1週間あたりの世界の死者発生が1年前の1/5に減ったことに触れ、「来たる2023年、コロナが世界的な緊急事態ではないと言えることを期待する」と述べた。
とはいえ、パンデミックでささくれた社会は、壊れた端末のように買い替えることはできない。失われた命、商機、時間、青春なども然り。世界の人々が長短それぞれの治療期間を抱えて、コロナ禍は四年目に入る。
冨永 格