コロナ禍の影響による企業のリモートワーク推進で、ビジネスパーソンは外出機会が減った。それに伴い、出勤時の必需品とも言える革靴、革のバックなど革製品の需要が一時減少。世界的な有名ブランドバッグのOEMや革カバン製造を手がける「曽我部」(大阪市)や、創業111年の皮革製造業(タンナー )「山陽」(兵庫県姫路市)では、一時売り上げが約40~50%に落ち込んだという。
一方で近年アウトドア人口が増え、人とは違うアイテムを使いたいというニーズが高まり、革のアウトドア用品の人気が上昇している。
曽我部と山陽は、「レザー×アウトドア」のニーズを感じ、「家族」をテーマにした商品開発などを行うアウトドアブランド「HikU(ハイク、滋賀県長浜市)」に相談。革の体験を通してその魅力を伝えていく「革育(かわいく)」のプロジェクトを発足した。
「エコなアイテムだと知って欲しかった」
「単に革製品を購入してもらうだけではなく、革に直接触れ、 魅力をより深く理解してもらうワークショップを企画した」
HikU代表の中村友洋氏は、プロジェクトの第一弾として今秋、大阪府の「スノーピーク箕面」で開いた革の体験ワークショップについて、こう説明した。「キャンプを楽しむ人は、環境問題に関心の高い方が多い。本来、皮革製品は経年変化を楽しみながら長く使えるエコなアイテムだと知って欲しかった」と話す。
ワークショップには、子どもから大人まで200人が参加。カットされたレザーのヘリを磨き、金具を付けてコインケースを作る体験や、日本で7人しかいない「鞄技術認定」1級の資格を持つ曽我部の職人から教えてもらいながら、靴べらを1時間かけて手縫いするメニューがあった。毛のついた「皮」から財布やカバンに使われる「革」へなめされていく24の工程を知る座学なども、開催された。
日本の牛革の約7割は、兵庫県で生産される。姫路市には 100 社の革関連の会社があり、山陽は「クロムなめし」「タンニンなめし」「白革なめし」の3種類のなめしを行う、全国で唯一のタンナーだという。ワークショップにはさまざまな色やなめし方のちがう革が並び、スタッフからなめし方やそれに伴う風合いの話が出た。制作体験の参加者は熱心に、自分に合った1枚を選び、革小物作りを楽しんでいた。
ワークショップに参加した40代の女性は、「普段何気なく使っていた革製品に、こんなに手間がかかっているとは知らなかった。学んだことを忘れず、今日作った革製品を大切に使いたいと思う」と笑顔を見せた。
毎年小学校で「革育」実施
山陽の事業推進部・森本耕治氏によると「牛一頭分の皮の重量は約56キロ、年間の畜頭数は日本国内で104万頭。皮は水分が多く燃えにくいため、もしも革製品として使わなければ、日本だけでも年間5万8000トンの廃棄ゴミが出てしまう試算となる(※)」という。
また森本氏は、「山陽で扱う牛革は100%食肉の副産物、革を作るために動物は殺されていません」と付け加えた。
同社では、毎年地元・姫路市の小学生を対象に工場見学を行っていた。コロナ禍の時期も、社員が革を持参して小学校を訪問。革ができるまでの工程を話したり、生徒からの質問に答えたりと、革を知ってもらう取り組みを続けている。今後は、HikU、山陽、曽我部の3社で「革育」として、海外からの旅行者へ向けたワークショップや、高校での革育の構想があり、活動の場を広げていくと意気込む。
(※)一般社団法人日本畜産副産物協会HP 畜産副産物の種類、政府統計 畜産物流調査のと畜場統計調査 2019年のデータをもとに山陽が算出。
(ライター・永井 玲子、写真・ツジタシンヤ)