【作リエイターズアトリエ(通称「作リエ」)】
テレビアニメ「ポプテピピック」のゲームパートを描き、映像制作やイベント主催など、フリーランスでマルチに活躍する山下諒さん。隔週水曜夜、各分野で活躍中のゲストクリエイターや美大生を招いて、「創作」をテーマに、ツイッターの「スペース」や「オンラインセミナー」で語らう企画が「作リエ」だ。
連載では、スペースで出た話題から、エッセンスを抽出してお届けする。
未来のゲストは、今この記事を読んでいるあなたかも?
第11回のゲストは、ミュージシャン、広告デザイナー、コピーライター、映像作家など、さまざまな顔を持つアーティスト・近視のサエ子さん。テーマは「悲しいから可笑しいの オトナの女アーティストに聞く『笑い』の醸し方」だ。スペースアーカイブはこちらから。
悲しい出来事は「舞台化」
サエ子さんは「熟せばややこしくなるものなのよ、女って」を活動テーマに掲げている。直近では、「ややこしい女が、ややこしい恋愛にどハマりするミニ曲集」として、「ややこしLOVE」を2022年12月7日にデジタルリリースした。ややこしさから生まれる切なさ、可笑しさを、作品を通じて表現している。
例えば、2022年5月にリリースした楽曲「女、深夜の麺屋にて」MVには、深夜のラーメン屋で号泣しながら麺をすする女と、様子をそっと見守る店主が登場し、物悲しくも不思議な空気感が二人の間に醸し出される。見る人にはそれが、じんわりと面白い。
父がアマチュア劇団の主宰を務めていた影響で、舞台や劇に慣れ親しんで育ってきたというサエ子さん。笑いをストレートに伝えるよりは、「ギャップや物語性があり、一周回って喜劇に見える」作品づくりを好むようだ。
サエ子さん「すごく悲しいことがあったときって、頭の中で舞台を見ているような気持ちになるんですよ。向き合わなきゃいけないものから、一歩離れたくなるというか」
サエ子さんは、かつて交際していた彼氏が、自分の友人と浮気をしていた実話を披露した。非常に傷ついたが、しょんぼりしている彼氏と、すっぴんで怒りながら問いただしている自分を俯瞰したら、「舞台のように感じられて、可笑しいなと思った」。チャップリンの名言「人生は近くで見ると悲劇だが、 遠くから見れば喜劇である」をほうふつとさせる。
山下さん「笑いって種類がありますよね。自分は『勢いに任せた全力投球ギャグ』が得意です。とにかくボケ倒し、見ている人にツッコませる。ツッコミ役がいるギャグが書けないです」
サエ子さん「わかります。ツッコミ役がいる笑いって難しいです。ツッコむワードにセンスがないというか、自分の中で納得感のあるツッコミにならないですね。憧れますけど!」
憧れているものを自作しようとすると、なかなか上手くはいかない。
「女、深夜の麺屋にて」MVは、サエ子さんが好きなお笑いコンビ「ラーメンズ」の世界観をリスペクトして制作した。しかし、マンガ編集者の知人から「ラーメンズを目指したMVだとわかるが、近視のサエ子があの空気感を出そうとすると、一気に『エロティック、場末感』が出てしまう」と指摘されたと話す。
サエ子さん「すごいなと思うものを狙っても、思う通りにならない。作る人の色は絶対に出てしまうので。でも最近はそれを『仕方ないな、自分の色だから』と受け容れられるようになりました」
「笑い」を止めてはいけない
スペース終了後の二人に、「作リエ」を振り返ってもらった。山下さんは、「誰しもが隠したい、ちょっとした裏の部分が露呈してしまう、人間的な面白さ」こそが、サエ子さんが表現したい「笑い」なのでは、と分析。
山下さん「そしてそれを直接的に表すのではなく、『結果的に面白い』と思わせる作品のつくり方は、今までの私にはない発想の仕方で、多くの気づきがありました」
サエ子さんは、「好きなもの、影響を受けたものを公言する機会はそんなに多くありません」としたうえで、こうコメントした。
サエ子さん「今回、山下さんに向けてそれらを公言したことで、自分の創作への想いを客観視できました。まだ具体的に明言できるほど固まっていませんが、確実に次の作品へのヒントになったと思います」
実は、幼くして阪神・淡路大震災を経験し、「昨日遊んでいたところ、日常が、いきなりなくなった」サエ子さん。以来「生かされている、生きなければ」という感覚を抱きながら、その後上京し、バラエティー番組の編集スタッフとして働き、独立した頃に、東日本大震災が発生した。その番組で司会を務めていたお笑い芸人の言葉が胸に残り、活動を支えている。
「こんな時やから、笑いを止めたらあかん」
あらゆる感情は巡り巡って笑いに帰結し、生きるうえでの糧になる。サエ子さんには、そんな教訓がある。
第12回作リエは、2022年12月21日実施予定。