「目標とするベスト16の壁を破ること、新しい景色は見ることは出来ませんでしたが、選手たちが『新しい時代』を見せてくれた」
サッカー日本代表・森保一監督は、帰国会見(2022年12月7日)でこう語った。ラウンド16・クロアチア戦後のフラッシュインタビューでも、「新時代」という表現を使っていた。決して虚勢を張ったわけではなく、本心だと思う。
日本がW杯という舞台で優勝国から勝ち点を奪ったのは、今大会が初。しかも引き分けではなく勝利だ。逆転劇も初めてで、1大会2度の逆転勝利はW杯史上52年ぶり3チーム目である。それだけを見ても、間違いなく新時代の扉を開いてくれた。
PKの決め方「間違っていたとは思わない」
会見には、急きょキャプテン・吉田麻也も同席した。 記者から森保監督に、PKキッカーを選手たちに選ばせたことへの質問が飛んだ。「結果をつかみ取れず選手に責任を負わせてしまった部分で、私が全て決めた方が選手にとっても良かったのかなと思います。もしかしたら結果も違っていたかもしれない」と答え終えると、「ちょっと補足して良いですか」と吉田が割って入った。
「僕はこのやり方が間違っていたとは思わない」
こう、メディアの「監督批判」を一蹴した。「全く同じやり方で、(東京)五輪でニュージーランド戦に勝っているんですよね」。
冒頭に森保監督が「ベテランがチームを支え、若手が躍動する。チーム一丸となって結果として、活動としてお見せできることができた」と自身のメンバー選考に胸を張った(参考記事:大迫勇也ではなく柴崎岳 森保一監督が求めた「経験」に違いが)。吉田のPKに関するコメントは、その一体感を象徴するシーンに映った。
選手層は厚くなった、それでも...
2010年から4大会連続でW杯に出場している長友佑都はクロアチア戦後、「確実に日本サッカーが成長していると実感した大会だった。優勝候補の国を破った大会はなかった」と振り返った。
何が、過去の日本代表よりも突出していたのか。
筆者は「今までにないぐらい選手層が厚かったと思うし、これだけ海外でやっている選手がいる代表は今回が初めて」(遠藤航)という点をあげたい。選手自身が世界との距離感を分かっており、ゆえに試合前に選手から主体的に監督に戦術や戦略の提言もできる。ドイツやスペインなどベスト8常連国相手でも、10回戦えば3回は勝てる確率にもってきた。
しかし、それでもクロアチアには勝てず、ベスト16で沈んだ。
遠藤の言葉。
「クロアチアは、モドリッチとコバチッチを途中で代えている。あれだけの選手をあそこで代えられるところに差を感じた。それだけ選手がいるというところ」
筆者も同感だ。クロアチア戦、久保建英が万全であれば、違うゲームプランを組めた。つまり、まだまだ選手層を厚くしていかなければいけない。
谷口彰悟は「パワーの使い方」重視
森保監督の戦術面での上積みも必要だろう。
久保は、W杯ではチームを優先するのは当たり前としながらも、「よく言えばチームのためにやることはやれた。悪く言えば自分のやりたいことはやれなかった」と、守備に奔走させられた現実を感じていた。同様に堂安律も、今大会の守備のベースは維持しつつも、「強豪国を相手にW杯という舞台で90分間しっかりボールを保持して勝ちたい」という理想を、バランスよく追いかけたいとしている。
ベスト8の壁を超えるため、このロードマップを描かなければいけない。
クロアチア戦は、リズムよく戦えた前半とは裏腹に、同点ゴールを奪われて以降は前線にボールが収まらず、好機を見いだせなかった。延長の苦しい時間帯も、ボールを保持できなかったことから体力を削られている。主導権を握れないと「苦しくなるんですよね、最後の所で」と、本連載で以前、久保竜彦氏が教えてくれた。(参考記事:「堂安を見たときは『うぉっ』て」 久保竜彦が示すスーパースターの条件)
これは決して「ポゼッション」と「カウンター」の二元論ではない。
谷口彰悟が、次のように言語化している。「世界のトップ8に行くことを考えると、点を取り切る力、パワーがチームとしても個人としても必要だと感じた。みんながハードワークして守備をする部分は十分、世界に通用すると感じた。さらに上に行くには、『どこでどうパワーを使うか』というところをやっていかないといけない」。
4年前のロシアW杯ではおぼろげだった世界との差が、今大会では確実に計れた。そういった意味で、間違いなく新時代を見せてくれたが、問題は次にどのように生かすのか。本連載の最後となる次回は、森保監督の進退の是非含め、「森保ジャパンとは何だったのか」の考察で締めくくりたい。(選手敬称略)
(石井紘人 @ targma_fbrj)