「歳相応」に抗う 吉本由美さんは「らしさ」に身を染めない

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いい歳こいて...

   「私らしく歳を重ねる」は、中高年向け雑誌の定番テーマである。特集のリードには〈昔と比べるのではなく「いまの私」を楽しむために。歳を重ねたからこそ、楽しめることがあります〉とある。どちらかといえば、年齢なりの楽しみに挑戦しましょうと読める。吉本さんはその「歳相応」にも染まらず、あくまで自分本位の老後を貫く。

   では、60代後半に「も」なって二座マニュアルのスポーツカーを転がしている私も、歳相応の生き方を無意識に拒んでいるのだろうか。そうかもしれない。吉本さんは「中身も外見に負けないよう、柔軟でなければならない」という。当方もせいぜい、車高113センチに乗り降りできるだけの足腰と腹筋、柔軟性の維持に努めたい。

   確かに、私も優しい少女らから優先席を譲られる機会が増えた。それでも、いつまでも「いい歳こいて」と言われるジジイを続けたいと 心から思う。もちろん公序良俗に従い、人様に迷惑をかけない範囲においてである。

   吉本さんのメッセージの核心は〈あるがままでいよう...無理して"らしさ"に身を染めると自分がどんどん薄まっていく〉という部分だろう。

   それでなくとも、年齢とともに社会での存在感は薄れていく。ならば服装や髪型、物腰や動作までを「らしく」せず、自分に正直にフェードアウトしていきたい。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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