■連載(第4回)
家具提供および搬入・設置を担う西川バウム(埼玉県飯能市)と、デザインアドバイス協力の乃村工藝社(東京都港区)によって、国産材でできた家具が運び込まれた。同運輸区で働く社員の心境・行動に、変化は起きたのか。第4回は、JR東日本協力のもと、30代(5人)、40代(1人)を対象に、(a)搬入直後と、(b)搬入から1か月後にそれぞれ実施したアンケート結果をレポートする。
「なんとなくワクワクする」職場に
まずは、(a) 搬入直後の意見。「木質空間を導入してよかったか」聞くと、内訳は「すごくよかった(1人)」、「よかった(4人)」、「わからない・その他(1件)」と、概ね好意的だった。その理由を、詳しく見ていく。
「五感から受ける印象・気分で特に大きく感じたことは何か」という問いに対し、多くが「香り」にまつわる回答を寄せた。以下が、その一例だ。
「職場に入った瞬間、木の香りがして癒される」
「職場に入ると一気に木の香りがあり、すがすがしい気持ちになれる」
今回、家具を設置したのは同運輸区の一角だが、そこに近付かなくても木材の香りがして、「なんとなくワクワクする」という。ある回答者は「オフィスなのに公園に居る印象を受けた」と表現。嗅覚だけでなく、「色味のおかげで明るく感じる」、「見た目もいい」と、視覚にも良いとの声が上がった。
また、手で触れたくなるのも木材家具の特徴だと言えるだろう。「木に触れる経験を日常生活であまりしないので、触れてみたい、使ってみたいと感じる」人や、「触るとひんやりして気持ちいい」、「手触りもいい」など、実際に感触を確かめた人もいる。
気になる家具、意見が三分
続いて、回答者が特に興味を引かれた家具は何かを調べた。
本取り組みで設置したのは、大まかに、(1)1本の丸太をそのまま縦に割ったようなデザインの本棚、(2)2組のテーブルとイス、(3)ヒノキの角材を並べた縁側デッキ、(4)木を割った板を横に積んだ本棚、の4点。「東京新幹線運輸区」に入ると正面に見える壁に置いた(1)を軸とし、(2)が左、(3)が右にそれぞれ展開、(2)と(3)前の壁際に(4)が置かれている(詳細は画像2および、第3回記事を参照)。
図面に丸をつけてもらったところ、(2)と(3)と(4)が2票ずつと、意見が割れた。
それぞれの選出理由とは。(3)は、開放的な空間であるのが好ましく思われているようだ。搬入前まで置かれていたソファには背の高い背もたれがついていたが、そうした遮るものがなくなったことで「会話が生まれやすい」、「背中に汗をかかない」点に魅力を感じる人がいた。
(4)を選んだ二人は、いずれも本棚の天板上に置かれている「コケリウム」に言及した。
「職場に生の植物をおくことが斬新だと感じた」
「本物の植物が置いてあることが新鮮で、みんな興味をもってのぞきにきていた」
唯一、(2)には機能面への指摘があった。素材感を出すために木についていた枝をそのまま脚に活用した、ベンチ型の長椅子についてだ(画像3)。「見た目も雰囲気も大変良い」一方で、座った時に感じるバランスの悪さが残念だという。
西川バウム・浅見有二代表は前回記事で「元となった木が生えている姿を家具から想像できるか、を重視」して家具を作ったと話した。自然素材をできるだけ生かした作りにした結果、こうした声が寄せられたことを、このように受け止めている。
「機能性を高めるなど、頂いた意見を今後の製品作りに生かしていきたい」
木材の良い匂いがダイレクトに
では、(b) 搬入から1か月後の同回答者たちは、どの家具に興味を引かれたのか。(a)搬入直後の結果とは打って変わり、(2)が4票、(3)が1票となった(1人は無回答)。
(2)が票を集めた背景には、「最も積極的に使われた」ことがあるようだ。木材の持つ魅力や、家具デザインが業務へプラスに作用したのが、各意見から推し量れる。
「この場所で、仕事していると木材の良い匂いがダイレクトにきて、頭がスッキリします」
「以前のテーブル・椅子よりもコンパクトになり、ミーティングなどの時間に集中しやすくなったと感じる。テーブルの高さやイスの変更により、姿勢が正された気がする」
(3)を挙げた人は、「公園にいるかのような雰囲気になり、職場独特の緊張感が和らぐようなイメージがある。プレッシャーが無い」と理由を述べた。
職場内に「木の心地よさを感じられる場」が出来る前と比べ、空間での過ごし方に変化はあったかという問い(自由記述)には、主にこのような答えが寄せられた。
「什器について話す機会が増えて、コミュニケーションをとるきっかけになった」
「職場全体の雰囲気が明るくなった。同じような作業・人であっても声をかけやすい感じ」
「木」が共通の話題となり、社員同士が自然に交流する空気が醸成されたようだ。さらに「仕事の合間などに、本棚から本を手に取って読む時間ができた」と、家具を積極的に利用している様子がうかがえる声もあった。
最後の質問。職場内に「木の心地よさを感じられる場」が出来る前と比べ、「業務」に変化はあったのか。自由記述で尋ねると、「特に変わらない(1人)」との回答もあったが、多くは「良い変化がもたらされたと感じている」ことが伝わる答えが集まった。
「仕事に息詰まった時に、場所を変えて木材のエリアで仕事する事によって、頭がリフレッシュされた」
「木の香りが思ったよりも持続し、リラックスする時間ができた。SDGsに関わることができているという意識を持つことができた」
2022年7月から数か月に渡り、国産材の魅力や価値、活用法を伝えてきた本連載。次回は最終回として、JR東日本、西川バウム、乃村工藝社らと取り組みを振り返る。