【連載】お腹トラブル天国と地獄 ~運命の選択~
コンサルティング会社で法人営業を行っている20代男性のひろしさん。新卒時代からお世話になっている上司から、大手企業向けの大型案件でコンペの担当を任されました。
ところが、大切なプレゼンを控えて突然の強烈な腹痛が......。こんな症状を起こさないための対策として、2つの選択肢を考えてみましょう。
大型コンペがプレッシャーに
ひろしさんはコンペ当日までの2か月程度、生活がコンペの準備中心に。深夜までの残業、欠食、コンビニ食など、不規則な日々が続きました。
プレッシャーや疲労感はあったものの、同僚や上司に手伝ってもらいながら、なんとか資料は完成。あとは、担当者の前でプレゼンテーションを控えるのみです。しかし、当日の朝、プレゼンに向かう前に立ち上がれないほどの腹痛と下痢を起こしてしまいました。
なんとかプレゼン自体は無事終えたものの、また同じ恐怖が襲ってきたら大変です。予防のためにひろしさんは、どのような対策をすれば良いでしょうか。
「食事の時間を固定する」か「下痢止めを飲んで収まれば、毎回頼ってよい」か。正解は、どちらでしょう?
脳のストレスがお腹にも影響
大切な会議やプレゼンの前に起こるお腹のトラブルは、極度のストレス状態が原因の場合が多いです。脳が精神的なストレスを感じると、神経経路を通じて腸に伝わります。結果、腸が過剰に活動し、腹痛や下痢を引き起こしてしまうのです。
今回のケースでは、過度なプレッシャーやストレス状態が長期的に続いたこと、寝不足による疲労感、プレゼン直前という緊張感の高まる状況から、突発的に腹痛を起こしてしまったと考えられます。資料を準備している段階から腹痛を起こしていてもおかしくありません。
近年では、このような症状が慢性的に続いてしまう「過敏性腸症候群(IBS)」が増加しています。2008年の調査によると、日本人の10人に1人が発症し、患者数は1200万人と推定されています。発症の原因はまだ解明されていませんが、炎症やストレスに対して腸が過敏に反応することで、さまざまな症状を引き起こすのです。日本消化器学会が発刊している「機能性消化管疾患診療ガイドライン 2020―過敏性腸症候群(IBS)」では、ストレス、不安などの心理異常が、病態へ関与しているとされています。
つまり、先ほどの二者択一の正解は、
食事の時間を固定する
となります。誰しもプレッシャーやストレスを感じることはあります。それに飲み込まれ続けて生活習慣が崩れると、不眠などを招いて精神的不安が増長してしまいます。そこで、忙しい中でも、決まったリズムでの生活を心がけましょう。食事時間の固定は、解決策のひとつとなります。
「下痢止めを飲む」は根本的な解決になっておらず、症状の悪化や慢性化につながる可能性があります。下痢止めはあくまで頓服です。長期的に下痢が続く、倦怠感が続く、不安感がある、といった場合は、病院を受診しましょう。
食事に集中して
生活リズムは、私たちの精神的安定に大きな影響を与えています。2017年に慶應義塾大学医学部の入江潤一郎教授らが発表した論文によると、マウスに対して同じエネルギー量の食事を自由に摂取させる場合と時間を制限する場合とでは、エネルギー代謝の効率が、時間を制限する方が上がることがわかっています。これは、摂食が内臓の生体リズムを作り出す引き金になっており、摂食が生活リズムへ影響しているということです。忙しいと、つい食事を疎かにしがちでますが、それがストレスをより強くしているかもしれません。
食事の時間を確保すること。そして、その時は目の前の食事に集中しましょう。また、「早食い」は厳禁。消化不良や胃もたれを引き起こして、結局仕事に集中できずに効率が低下します。よくかんで、ゆっくり食べることが大切です。
(文・イラスト:長瀬みなみ ウンログ株式会社)