ちゃんぽん劇場 松重豊さんが「奇跡」と呼ぶ半身浴の役者たち

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効果的な比喩

   具がスープに浸りきっていない状態を「半身浴」と書き、どんぶりの中を彩る食材たちを「老優」「共演NG」「美味しいところを全て持っていく」と、芸能界に重ねる松重さんの筆致。いろんな役者が力を合わせ、ある者は陰から支え、ある者は捨て身で貢献し、ちゃんぽんという作品を作り上げる様子がユーモラスに描かれる。食エッセイの名手、東海林さだおさんを思い浮かべた。

   比喩の多用はひとつ間違うと「うるさい」印象になるが、ハマれば定食における気の利いた「小鉢」のように、食(読)欲増進の効果を期待できる。

   野菜がたっぷり入り、栄養バランスが良さそうなちゃんぽんは、私も大好きだ。長崎のちゃんぽんは明治中期、中国の福建省から伝来したものが中国人留学生らを媒介に広まった、という説が有力らしい。1970年代以降、リンガーハットが「長崎ちゃんぽん」をチェーン展開したことで日本中に広まった。

   九州に土地勘がないわけではないが、ちゃんぽんにウスターソースをかけた経験はない。同じ長崎名物の皿うどんでは何度かやったような。郷土料理をめぐる種々の「論争」は、そこで生まれ育った人、私のように勤務地として何年か暮らした人、純然たるよそ者(できれば食通)の最低3人がそろうと面白くなる。

   こうした食談議にとって、松重さんのエッセイは格好の素材だと思う。読んで楽しいだけでなく、ひとこと「参加」したくなるような不思議な後味がある。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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