東京都が、都心と臨海部を結ぶ「臨海地下鉄」事業化に着手する――。2022年11月24日、読売新聞(電子版)がこう報じた。東京駅から築地や勝どき、豊洲市場を通り、有明・東京ビッグサイトを結ぶ総延長6キロメートルの路線になるという。
実は、有明や豊洲から勝どきを結ぶ路線としては、かつては東京臨海新交通臨海線(ゆりかもめ)を延伸する計画があった。11月24日現在、この計画は具体化には至っておらず、ゆりかもめは豊洲駅で止まったままだ。
「豊洲で永遠にとまっていていただきたい」
東京都が出資する第三セクター方式として1995年に新橋~有明間が開業した「ゆりかもめ」。路線としてはまず新橋より南に下り、芝浦ふ頭から東に向かい、お台場エリアを通ると、有明へ向かって北東へ。豊洲市場を経由し、豊洲駅で止まる。
まだ有明~豊洲間が工事中だった2000年、旧運輸省内に設置されていた「運輸政策審議会」は、今後の東京圏の交通網に関する計画を公表。同年1月27日「運輸政策審議会答申第18号」の中で、ゆりかもめでは豊洲~勝どき間の延伸整備への着手を2015年までに行うべきとしていた。
ところが、豊洲~勝どきエリアでは、中央区が構想する新たな路線計画が浮上する。日経新聞(電子版)の2014年2月7日付記事によると、中央区の矢田美英区長(当時)は6日の記者会見で、東京五輪後を見据えた地下鉄の新規路線誘致構想を明かした。そして2014年度から、臨海部と都心部を結ぶ地下鉄新線の導入に関する調査検討を開始している。
一方のゆりかもめ延伸計画は、中央区からの反対を受けていった。14年2月24日、中央区議会の東京オリンピック・パラリンピック対策特別委員会の中で、吉田不曇副区長はゆりかもめ延伸について言及。
豊洲から勝どきまでの延伸を指して「実現可能性はゼロ」とし、「豊洲でずっと永遠にとまっていていただきたい」と述べた。理由として、勝どきに留まらず都心部にまでつなぐのであれば「役に立つ交通システム」といえるが、延伸計画ではその見通しが立っていないと説明。また勝どきを終点とした場合の駅舎混雑の懸念や、高架が街を分断するといった点から「地元の方も含めて、つくらせない決意である」と東京都に伝えていると語った。
ポストコロナのゆりかもめは
東京都が2015年7月に発表した「広域交通ネットワーク計画について≪交通政策審議会答申に向けた検討のまとめ≫」という資料では、ゆりかもめ延伸(豊洲~勝どき)と「都心部・臨海地域地下鉄構想」を比較。両者を整備した場合について検討したところ、臨海地域の需要が競合してしまい、ゆりかもめ延伸による収支採算性に課題が出るとの結果になったという。
「運輸政策審議会答申第18号」の次期答申にあたる「交通政策審議会答申第198号」を受け、国土交通省の交通政策審議会は、「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」(2016年4月付)という資料をとりまとめた。その中では、「国際競争力強化」につながる交通プロジェクトとして、「都心部・臨海地域地下鉄」が挙げられている。しかし交通政策の構想から外れたのか、ゆりかもめ延伸に関する項目は見当たらない。
その後も、中央区がゆりかもめ延伸に反対する立場は変わっていないようだ。2021年7月24日に実施した区の「築地等地域活性化対策特別委員会」で、高橋まきこ区議会議員は、ポストコロナを見据えたゆりかもめの延伸に対する考えを、改めて先述の吉田副区長に質問した。高橋議員によると、ゆりかもめでは以前には勝どきに留まらず、東京駅にまで延伸する計画があったのだという。
これに対し、吉田副区長は、ゆりかもめは「中量輸送機関」かつ「遊覧的」であり、機能論からして東京駅にはつなげられないと説明。勝どきまで延伸する必要性も存在しないとし、「(区としては)豊洲のところで止めてしまったらいいんじゃないのか」と考えていると回答した。