早い者勝ち
サンキューさんの連載は10月に始まり、本作が4回目。これまで「エモい」「雑誌」「タイパ」と取り上げてきて、今回が「忖度」という流れである。
さて忖度という言葉、難読漢字の世界では知られていたものの、ニュースの見出しや日常会話に登場し始めたのはここ数年か。言葉としてのメジャーデビューである。
サンキューさんが編集に参加した広辞苑によると、〈他人の心中をおしはかること〉とある。一方、類語として筆者が触れた斟酌は〈その時の事情や相手の心情などを十分に考慮して、程よくとりはからうこと。手加減すること〉である。なるほど、忖度より「ふさわしい」というのも理解できる。「推し量り+取り計らう」のである。
忖度か、斟酌か。そんなことは使う側の知ったことではない、とサンキューさんは考える。ソンタクのほうを上記の意味でたまたま誰かが使い、メディアが広めたから定着しただけのこと。大衆は常に辞書を持ち歩いているわけではない。早い者勝ちである。
「日本語に関しては日本人が一番鈍感」という指摘に改めてうなずく。そのいい加減さこそが、新語や新用法が生まれるエネルギーをもたらすという洞察にも納得。「日本語に携わるもの」を自任するだけのことはある。忖度抜きで、そう思った。
冨永 格