ツイッターを買収したイーロン・マスク氏の一挙手一投足が、世界的ニュースになっている。社員の半数を解雇し、2022年11月10日には社員向けの演説で、「このままでは倒産の可能性がある」と述べたという。
マスク氏はツイッターの改革にフォーカスしているようだが、本業である電気自動車(EV)メーカー・テスラの業績も思わしくなく、中国市場で初の値下げに踏み切った。
値下げは初めて
マスク氏は中国で熱狂的な人気を誇る。テスラを創業した同氏に憧れ、多くの中国人起業家がEV企業を創業。数社は上場するまで成長し、中国のEVシフトをけん引している。マスク氏が音声メディアの「クラブハウス」(Clubhouse)に参戦を表明したときは、中国からのアクセスが殺到し、サーバーがダウンしたほどだ。中国当局はその後、国内からClubhouseへのアクセスを遮断した。
最近ではマスク氏のツイッター買収が世界的なニュースになっているが、中国では通常の方法ではツイッターにアクセスできないため、マスク氏を巡るホットトピックは変わらずテスラだ。
そのテスラは10月24日、中国で販売するモデル3とモデルYを1万4000~3万7000元(約29万~75万円)、平均9%値下げすると発表した。最も値下げ額が大きいのは中型スポーツタイプ多目的車(SUV)モデルYの「パフォーマンス」(上級4WD)で、39万4900元から35万7900元に引き下げた。
テスラは2019年12月に上海ギガファクトリーを稼働し、中国産モデル3の供給を開始、2021年にはモデルYの生産も始めた。以降インフレを背景に小刻みに値上げを繰り返してきたが、値下げは初めてとなる。主力の「モデル3」の最廉価グレードについては米国よりも100万円以上安くなっている。
中国ではBYDが追い上げ
決断の背景には、テスラが直面する「需要の不振」「競合の台頭」という2つの問題があると見られている。
同社が10月19日に発表した2022年7~9月決算は、売上高、納車台数ともに市場の予測を下回った。テスラは年初に今年の納車台数の目標を140万台に設定したが、1~9月の実績は約90万台で、目標達成には残り3か月で50万台の上積みが必要だ。実現は非常に困難で、決算発表日の翌営業日は株価が下落した。
中国市場はテスラ車の3分の1が売れるドル箱だったが、ゼロコロナ政策で経済が低迷している上に、今年に入って現地自動車メーカーのBYDが販売台数を急激に伸ばし、「テスラのライバル」と紹介されることも増えた。BYDは今年3月でガソリン車の生産を終了しており、EV市場で唯一無二の存在だったテスラにとって、初めての本当の意味での「挑戦者」になる可能性もある。
ツイッター買収資金の調達のためか、マスク氏がテスラ株を39億5000万ドル(約5800億円)で売却したことが11月8日に明らかになると、テスラの株価はさらに下落し、10日時点で過去2年分の上昇幅が吹き飛んだ。BYDは2023年に乗用車の日本進出を発表しており、テスラと同水準のハイエンドEVブランド立ち上げを計画しているとも言われる。マスク氏はツイッターに夢中だが、その間に本業を支えている中国でのブランド力が危うくなる可能性もある。
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