私のタワー愛 下重暁子さんは三十数年ぶりに「彼」との逢瀬を

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古びない景色

   新たな住居を探すとき、とりわけ大都市のマンション族にとって、窓やベランダからの眺めは重要な要素である。優先順位は人それぞれだろうが、広さや築年数、周辺環境と並ぶほどの関心を割く向きもあるはずだ。

   私も二度目のパリ勤務でアパートを探すにあたり、エッフェル塔が見えることを最優先した。もちろん予算には限りがあり、結果的には「上半分」で妥協したのだが、あの塔の美しさは足元のアーチを含む下半分にあって...おっと話がそれた。

   東京ならタワーのほか、スカイツリー、レインボーブリッジ、西新宿の超高層ビル群、歌舞伎座あたりが「光るランドマーク」として人気である。1989年に始まるタワーのライトアップを手がけた照明デザイナー、石井幹子さんの大目標は、それまで闇に埋没気味だった夜のタワーを「昼より美しく見せる」だったという。

   1959年にNHKアナウンサーとなり、1968年にフリーに転じた下重さん。親元を離れたのは、ライトアップのずっと前だろうから、照明は鉄骨に据えた暗い電球のみの時代。夜景というより、昼を含めた雄姿に魅せられたのだと想像する。マンションは老朽化しても、そこからの眺望は古びないどころか、タワーを中心に更新されていく。

   それにしても、タワーを「彼」と呼び、恋人にたとえる筆者はロマンチストである。自慢の彼、長身は間近で見上げてこそ映えるのだ。招いた客たちは一様に感嘆し、その美形にカメラを向ける。下重さん、至福の時に違いない。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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