古びない景色
新たな住居を探すとき、とりわけ大都市のマンション族にとって、窓やベランダからの眺めは重要な要素である。優先順位は人それぞれだろうが、広さや築年数、周辺環境と並ぶほどの関心を割く向きもあるはずだ。
私も二度目のパリ勤務でアパートを探すにあたり、エッフェル塔が見えることを最優先した。もちろん予算には限りがあり、結果的には「上半分」で妥協したのだが、あの塔の美しさは足元のアーチを含む下半分にあって...おっと話がそれた。
東京ならタワーのほか、スカイツリー、レインボーブリッジ、西新宿の超高層ビル群、歌舞伎座あたりが「光るランドマーク」として人気である。1989年に始まるタワーのライトアップを手がけた照明デザイナー、石井幹子さんの大目標は、それまで闇に埋没気味だった夜のタワーを「昼より美しく見せる」だったという。
1959年にNHKアナウンサーとなり、1968年にフリーに転じた下重さん。親元を離れたのは、ライトアップのずっと前だろうから、照明は鉄骨に据えた暗い電球のみの時代。夜景というより、昼を含めた雄姿に魅せられたのだと想像する。マンションは老朽化しても、そこからの眺望は古びないどころか、タワーを中心に更新されていく。
それにしても、タワーを「彼」と呼び、恋人にたとえる筆者はロマンチストである。自慢の彼、長身は間近で見上げてこそ映えるのだ。招いた客たちは一様に感嘆し、その美形にカメラを向ける。下重さん、至福の時に違いない。
冨永 格