銀座のバーで 角田光代さんを「正真正銘の大人」にしたその電話

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遊びの極み

   それなりに経済力のある女性を読者層とし、いくつも関連ムックを出すなど銀座に縁が深い「Hanako」。今号のリードは、特別編集の狙いを以下のようにまとめる。

〈ハレの言葉がよく似合う銀座の楽しみはいろいろ。色とりどりのパフェや心華やぐアフタヌーンティー。老舗を訪ねれば、丹精な手仕事の数々が。いつもと違う、出会いが待っているのが銀座です。心晴れやかにしてくれる、銀座の名所・名品に触れてみませんか?〉

   角田エッセイは、時にミラクルを生み、ジンクスを残すこの街の「特殊性」を作家の視点で描いた小品。2005年の直木賞をはじめ、著名な文学賞をいくつも取っている人なので、スタア・バーでの歓喜がどの賞の時なのかは定かでない。ただ、これほどの人気作家も1990年代以降、芥川賞を含めたくさんの作品が「候補作」で終わっており、やがて「酒を飲みながら待つと落ちる」という戒めに至ったのだろう。

   候補者全員が同じ店で待機していたら、あるいは同じ料理を食べながら待てばと考えるだけで、この種の因縁の矛盾は明らかだ。無粋を言うようだが、文学賞というもの、皆が縁起を担ぎたくなるほど取りたいものらしい。もちろんジンクスの半分以上は洒落であり、角田さんの「断酒」のように、まじめに最善を尽くすのもまた遊びの極みである。

   それぞれの陣営が準備した祝賀会の大半は、残念会や反省会で終わる。そして当夜から新たな伝説が語り継がれ、その街を「とくべつ」にしていく。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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